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支援事業者 インタビュー記事

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アスタミューゼ株式会社 Creww株式会社 株式会社サムライインキュベート
株式会社ゼロワンブースター ナインシグマ・ホールディングス株式会社 BASE Q (三井不動産株式会社)

 

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    アスタミューゼ株式会社

    インタビュー

    (インタビュー実施日:2021年4月2日)

    目先の相性にとらわれないオープンイノベーションで、10年先の未来を拓く

     

    異分野のアイデアとアイデア、企業と企業をつないで、取り組むべき社会課題と進むべき未来像を示す、アスタミューゼ株式会社 代表取締役社長の永井歩氏に話を伺った。

    (永井 歩氏)

     永井代表

     

    業界内にとどまる先端知見を異分野に展開する

     

    瀧島 勇樹(経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課 課長。以下、瀧島):2005年頃、日本では、まだオープンイノベーションという実態は広がっていなかったように感じていますが、どのような課題意識から事業を始められたのでしょうか。

     

    永井 歩(アスタミューゼ株式会社 代表取締役社長。以下、永井):大学院の在学中にこの会社を立ち上げ、創業16年になりました。当時、私がいた原子力の研究室で研究していた内容は非常に膨大な金額を頂いたにもかかわらず、原子力業界以外で使う想定ではない事に大きな機会損失を感じた事がきっかけです。

     

    世界を見てみると、例えばNASAが生み出した技術は、宇宙産業だけではなく、民生品を含めたあらゆる他の業界で使われています。原子力の業界では、原子力業界の枠を超えても明らかに最先端の技術であるにもかかわらず他の業界で使われていない技術もあり、非常にもったいないという思いがありました。また、研究のメインテーマではない所を趣味的に開発してソースコードで研究室のホームページで公開したところ、世界中の異分野の研究者からアクセスがあり、興味を持たれる事を実感した事で、大学院の研究成果や特許をライセンスアウトできないかっていうところが最初のきっかけです。

     

    瀧島:ある技術を違う領域に持っていくことで、予測できないような新規事業が創出される可能性があるわけですね。とても面白いです。他方で、違う領域に持っていって実際に活用することは容易ではないようにも思います。アンテナを高くし、視野を広げ、探索し続けることで、技術を活用できそうな違う領域を見つけられたりするのでしょうか。

     

    永井:同じ領域ですと、自分たちで創りたいという思いが皆さん強いため、オープンイノベーションやライセンスアウトは違う分野・業界の方がうまくいく確率が高いのではないか、と感じていました。そこで、私たちは専門家ライセンスコーディネーターの逆張りで、意図的に「違う領域に技術をもっていく」という戦略を取りました。そのうちに、これが非常に効率的でかつ誰もやっていないということに気づき、仕事が増えていきました。

     

    暫くして、人間が発想すると、誰しもが無意識に同じ分野で考えてしまうという傾向・バイアスがあるため、アイデアを探すということにおいては機械の方が効率的ではないかということに至りました。もちろん、実現可能性の検証や深掘りは人間のほうが得意です。ただ、知の深化ではなく、知の探索は、機械のほうが効率的というのが私達の当初の仮説で、16年間の経験と実績からは間違いなくそれは正しかったと言えると思います。

     

    例えば、特許庁の審査官の方が、全く違う技術領域の文献を用いて “同じ技術があるから新規性はない” と査定しているところに着目し、『世界中の特許庁の審査課程の中で、異分野から引っ張ってきた箇所が、ライセンスアウトの異分野探索に使えるのではないか』と考え、これをデータベースにしています。総当たりのパターンは機械の方が得意ということもあり、属人的な異分野探索をやめ、全て機械で異分野探索する方に振り切りました。

     

    イノベーション(≒新結合)を起こすには、「ボーダーを超える」ことが重要

     

    瀧島:特許庁の審査プロセスから発想の仕方を構想されたのは面白いです。そうした新しい組み合わせを考える際に、異分野の他に気を付けられていることはありますか。

     

    永井:大企業とスタートアップのように、違う規模の会社をつなぐことができないかと常に考えています。

     

    イノベーション≒新結合は、何かの『ボーダーを越える』ことが重要で、①日本と海外、②大企業とスタートアップ、③ある特定分野と違う分野、のように、3つの壁を意識して越えられるようにサポートしています。

     

    現在は世界中の24言語の様々な情報を英語に翻訳してデータベース化しています。2008年に日本の全特許を日本語から英語に機械翻訳して全世界に公開した時は、アクセスが多すぎて、サーバーが一瞬で落ちるという経験をしたほどです。「知の流通」というキーワードを使っていますが、“つなぐ”ことによって付加価値が出てきます。

     

    瀧島:違う属性のものをつなぐと価値が出そうというのはそうでしょうね。他方で、まったく価値が出ないということもありそうです。機械が“つなぐ”というところを、もう少し具体的に教えていただけますか。

     

    永井:各情報源の中の各項目の意味・背景を適切に解析・把握したうえで、その意味をくみ取り異分野と“つなぐ”ことができないか、探索することです。意味付けについては、私たちが統計処理を行ったり、テキストマイニングを使ったりするパターンもありますが、先ほどの特許庁の審査官の事例などは、単純に機械で出した類似関係・引用関係結果よりもはるかに強烈な意味、ストーリーがあります。

    また、技術の関係性だけではなく、プレイヤー同士の関係、ネットワーク上の位置づけなどを考慮する事で、単なる共同研究なのか、M&Aなのか、実現するためのストーリー性が全く違ってくるので、オープンイノベーションの成功確率も変わってきます。

     新規事業う・用途の探索と実現

     

    未来像、実現のためのストーリーを共有することで、オープンイノベーションの成功確率を上げる

     

    瀧島:単に何かを機械的に組み合わせても、オープンイノベーションはうまくいかないように感じています。機械で算出した情報に意味付けすることで、どのようなことができるのでしょうか。

     

    永井:データベースを使ったときに、システムで機械的に探索しつつも、ストーリー性まで意味づけできるような解析プロセスを持っているため、例えば、急に明日アポ入りましたといった場合でも、次の日には、「この分野のこの会社さんと連携するとこんな事業ができると思います」ということをご提案できます。

     

    瀧島:ストーリーですか。

     

    永井:最初の10年間はひたすら特許、論文、研究データ等の技術情報のもつ意味を解析したりしていましたが、技術の世界の中でしかオープンイノベーションの共感や意味付けを生み出せませんでした。ビジネスの意思決定という観点では、オープンイノベーション成功の確率が高くなかったのです。

     

    そこで、私たちはビジョン(エコシステム、最終的に解決される社会課題など)やプレイヤー情報の解析にも目を付けました。『最終的に何を解決していくのか』というビジョン、社会課題やエコシステムなようなところがイメージできていないと、結局はたまたま合った・合わなかったということになってしまいます。オープンイノベーションが日本でなかなか生まれないのは、相性を越え、共有・共感できるビジョンがないからと考えました。

     

    例えば大企業がスタートアップに出資する際、スタートアップから「なぜ私たちの会社に出資したいのですか」と聞かれると思います。大企業が「この会社のこの技術が欲しいから」とお伝えすると、かみ合わないように感じています。

     

    スタートアップを起業した方や研究者などは、技術を生み出したい背景の中に、社会にある課題を解決し、こういう世界をつくりたいという想いがあると思います。想いを実現するためにあなたたちの技術が必要だというストーリーが必要で、同じゴールを見ていれば、規模、業界、言語の違いを越えて、連携できるのではないかと考えています。

     

    瀧島:違う属性同士が組むわけですから、お互いに共通する目的に向かっての道筋がお互いにイメージできるようになることは大事ですね。ストーリーを紡いでいくときは、どういうプロセスで議論されていますか。世の中のスローガン、のようなビジョンがどうしたら道筋が見えるナラティブになっていくとお考えでしょうか。

     

    永井:私たちは、世界中の社会課題を網羅的に構造化・整理して、社会課題、技術、ビジネスモデル、プレイヤーを紐付け、抽出できる機能を持っています。

     

    例えば、『御社の有する技術の強みを活かすとこの社会課題(仮に、社会課題Aとする)の解決にアドレスできるが、社会課題Aに取り組むときには、御社ではBというパーツが足りていない。パーツBはこのベンチャーが持っている』ということがわかります。これを活用して、『社会課題Aを解決するために起業したベンチャーがあるが、御社の有する技術との親和性が高そうだ。このため、このベンチャーに対しては、「一緒にAという社会課題を解決しませんか」という形でアプローチしてみてはどうか』、というようなご提案をしています。

     

    社会課題を基軸にした技術活用や新規事業開発

     

    中長期の企業価値を意識し、オープンイノベーションに取り組むことが必要

     

    瀧島:事業を始められた2005年頃と比べて、企業のオープンイノベーションの取り組みは、どのように変化してきたと感じられていますか。

     

    永井: オープンイノベーション自体は一般化されつつあると思いますが、いかにオープンイノベーションが企業の中長期的な価値に紐付くのかどうかということを理解しないまま、新規事業に取り組んでいる企業様が多いように感じてきました。大きな内部留保があり、その資金運用的な観点が追い風になりオープンイノベーション、特にM&AやCVCでの出資が行われていますが、ふたを開けてみるとポートフォリオ戦略が全くない場合もあります。実際問題としてコングロマリット・ディスカウントが進んだりもしています。

     

    イノベーションをポートフォリオとしてマネジメントしていくことがどれだけ短期ではなく中長期のレジリエンスを上げるのかなど、そのこと自体を理解してコントロールしていかなければ、本業が数千億から1兆円以上の売上がある企業様だと、今年の10億円の売上を上げるオープンイノベーションで生み出した新規事業の価値を見いだすことは難しいように感じます。私たちは、オープンイノベーションがどれだけ企業価値に紐付くのかということを可視化するサービスを提供しています。ポートフォリオ戦略として、どのようにオープンイノベーションを使っていくのか、その辺まで意識しているオープンイノベーションが必要ではないかと考えています。

     

    瀧島:最後に、御社の今後の展望について、お聞かせ下さい。

     

    永井:今、10年かかる構想を3年で実現するために、レベニューシェアの結果、全体売上での自社のシェアが3分の1に落ちてでも、その代わりエコシステムをつくって売り上げのトップラインを3倍に持っていく、そういうようなことに挑戦する時代だと考えています。

     

    どのような社会課題を解決し、どのようなエコシステムを創っていきたいのかという未来像を社会に対して発信していくこと自体が、企業価値であると思います。

     

    膨大なデータベースから世界中のプレイヤーとマッチングする際にも、社会課題や未来像の合致が重要です。目先の相性だけにとらわれないオープンイノベーションで、企業の皆様とともに、新規事業・イノベーション創出に挑戦していければと思います。

     

    (永井 歩氏 プロフィール)

    ・アスタミューゼ株式会社 代表取締役社長

    大学院在学中の2005年9月に、知的資産を流動化・活用することを目的とした会社、株式会社パテントビューロ(現 アスタミューゼ株式会社)を設立し、代表取締役に就任。世界80ヵ国をカバーするイノベーションデータベースを基に、新規事業・イノベーション支援、技術活用・知財戦略構築支援、社会課題解決支援SaaS、企業価値評価・向上支援など様々な事業を展開。

    URL:https://www.astamuse.co.jp/

     


     

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    Creww株式会社

    インタビュー

    (インタビュー実施日:2021年3月25日)

    『大挑戦時代』

    ヒト・モノ・カネをスマートに挑戦者へ

    挑戦者のための成長支援プラットフォーマーとして活躍する、Creww株式会社 代表取締役 伊地知 天氏に話を伺った。

     

    (伊地知 天氏)

     伊地知代表

     

    起業家の「成長機会」を増やす

     

    瀧島 勇樹(経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課 課長。以下、瀧島):御社を創業された2011年頃と比べると、日本においても、経済を牽引するような起業家も増え、オープンイノベーションも盛んになってきたように感じていますが、どのような課題を感じられ、事業をはじめられたのでしょうか。

     

    伊地知 天(Creww株式会社 代表取締役。以下、伊地知): 15歳で単身渡米して、アメリカの西海岸で高校と大学を出ています。大学在学中に起業して立ち上げた会社を売却して、また新たな会社を起業してなどをやっておりました。フィリピンでも会社を興していた傍ら、2011年に東日本大震災が起きたのをきっかけに、同年の4月に帰国してボランティア活動をした際に、そこで現地の方が再三おっしゃっていた『復旧はしても復興は難しい』という言葉が印象的でした。建物が綺麗になっても、漁業や農業等といった産業を再開できない地域は復興することが難しいです。そこで、環境に依存にしない、IT関連サービスやデジタル産業等がどんどん生まれると良いのかな、と思うようになりました。東京に戻り、あらためてマクロな視点で考えた時に、被災地だけでなく日本全国において、新しい産業を生み出すことに課題が沢山あると分かりました。

     

    2011年当時、日本は他の国と比べてスタートアップ・エコシステムが活性化されていませんでした。

    チャレンジする人の絶対数を増やし、それに必要なサポートをしっかりやるプラットフォームを創ろうというのがきっかけでした。起業家に必要とされる経営資源『人・お金・成長機会』のうち、一番手薄だった成長機会に着目し、この部分をマッチングさせることを目的に2012年にCrewwを創業しました

     

    大手企業とスタートアップは補完関係。お互いの理解を深め、事業創出を目指す

     

    瀧島: 約10年間、成長機会のマッチングの取組を継続されていると思いますが、大手企業とスタートアップの連携に関して、どのような変化を感じられていますか。

     

    伊地知: スタートアップは事業会社(大手企業など)が持つ経営資源を活用して自らの成長を早め、事業会社は先進的な技術やアイデアを持つスタートアップと協業することでイノベーション活動を加速させることが出来ます。実際には、ピッチイベントで出会っただけで協業が生まれるわけではなく、両社の間にしっかり入って利害を調整しながらファシリテートして協業・事業化までを支援する必要があります。

     

    本来、大手企業とスタートアップは、補完関係になりうるものと思っていましたが、10年前の日本では両社の距離が遠すぎてお互い会話をすることが難しかったです。当時は、大手企業がスタートアップと一緒に事業を実施することや、投資するといった文化も根付いておらず、最初の1年はなかなか理解してもらえませんでした。一方で、米国では当たり前のように大企業とスタートアップが一緒に事業に取り組んでいるのを見てきたので、根気よく活動を続けた結果、徐々にご理解いただけるようになってきました。

     

    当時はアクセラレーターという言葉も理解されなかったので、両社のコラボレーションという意味でアクセラレータープログラムを『コラボ』と呼び、スタートアップが大企業と協業するチャンスを提供してきました。弊社サイトに、オープンイノベーションプログラムの開催企業を時系列に並べているのですが、オープンイノベーションが広がっていった業界の波を見てとれます。(編集注; Creww株式会社のウェブサイト「オープンイノベーションプログラム 開催企業一覧」参照。https://creww.me/growth/results/ )。

     

    オープンイノベーションの取り組みは首都圏の大手企業から始まりましたが、2020年4月の緊急事態宣言以降、地方の中堅企業からの問合せが激増しています。従来は、大手企業が飛び地に新規事業をつくり、スタートアップと新しいマーケットを創ることを求められていました。昨今の中堅企業の皆様のニーズとして、急速なDX推進(デジタル化)を受けて既存事業のアップデートやデジタル化が顕在化しています。

     

    瀧島: 大手企業とスタートアップが連携し事業を創出していくことは、容易ではないと感じています。連携という手法を使ってどのように事業創出を目指していくのか、具体的に教えていただけますか。

     

    伊地知: 1回のプログラム自体は、大体6か月から8か月間くらいかけて行います。

     

    事業会社は、当社のウェブサイト上に、『どういう領域、事業セグメントで新しいことをやりたいのか』『開放できる経営資源は何か』という情報を掲載します。スタートアップは、これらの情報を確認し、自社技術やサービスと組み合わせ、『短期的にはこういうことができる』『中長期的にはこういう市場を一緒に狙いにいける』という情報を、オンラインで挙げていきます。現在、5,300社を超えるスタートアップが当社のプラットフォームに登録しており、毎月増えています。

     

    事業会社側には当該サイトの管理機能を渡しており、エントリーしたスタートアップを一覧で管理し、全てオンラインで協業を推進できるようになっています。また、定量的にスタートアップを評価できるシステムも入れており、どうすれば新規事業がうまく進むか規定の評価軸に沿って評価・判断が出来ることに加えて、開催企業の目的・目指すゴールに合わせて判断軸をカスタマイズできる機能も搭載しています。

      

     OIサービス

    エントリーしたスタートアップの提案は彼らの推測も含むため、8週間ほどかけて協業案をブラッシュアップするのですが、このプロセスが肝になります。提案してきたスタートアップに対して個社毎に事業会社の担当者をつけてもらい、管理画面上でチャットシステムのようにブラッシュアップしていきます。当社の担当者はこのブラッシュアップを全てモニタリングし、事業化に向けてもっと詰めるべきポイントからスタートアップとのコミュニケーションの取り方の助言までサポートします。

     

    その後、事業会社の役員向けのプレゼンテーションになりますが、この8週間はこのプレゼンテーションに堪え得る材料を集めることでもあります。チェックすべきポイントを事前に項目にしており、チェックマークを付けていくと『ブラッシュアップ完了率』がでてきます。低い場合は、目標値に到達するようにサポートします。

     

    新規事業創出を自分事として捉え、新規事業の定義、ゴールを現場と上層部で共有する

     

    瀧島:結構アナログに現場で汗をかくプロセスを経ているのですね。そこから事業をフライさせていくときは、どのようなことに気をつけておられますか。

     

    伊地知: 役員向けのプレゼンテーションをスタートアップがしないことが重要です。スタートアップがプレゼンし、それを審査する形にしてしまうと、『事業会社の新規事業をつくるためにスタートアップがいる』という構図になってしまいます。事業会社の新規事業なので”自分事”としてとらえ、スタートアップとペアになって事業会社の担当者が社内で合意を得ることが大切です。スタートアップを下請けとしないマインドセットがすごく重要で、クライアントをスタートアップとの協業を円滑に進められる状態までもっていくのも私達のミッションです。

     

    これまでのプレゼンテーションでは、確率的に5割が採択されて実証実験に入りました。当然、この実証実験の計画もプレゼンテーションに盛り込みます。ここまでがプログラムの半分で、大体3か月、残りの半分は、実際に市場で検証を行います。6カ月が経過した頃には実証実験もある程度終わっているので、事業化の是非の判断がつくレベルまでもっていくのがゴールになります。過去10年間で約200回実施し、採択数が約680件になりました(編集注;2021年5月現在)。

     

    また、2020年10月から全てのプロセスをオンラインで実施できるクラウド型オープンイノベーション支援サービス「Creww Growth」の提供を開始して、これまで業界相場で2~3千万円くらいするところ、月額25万円でお使いいただけるようになりました。それで5,300社のスタートアップとダイレクトにつながり、かつ未経験の方でもしっかり形にしていけるシステムを提供しています。(参照「Creww Growth」:https://growth.creww.me/

      

    ポイント 

     

    瀧島:自分事ってとても大事ですよね。そこはすごく大きなボトルネックのように思うので、役員も担当も自分事になると8割方はうまくいくようにも思ってしまうのですが、さらにそのあとうまくいかないケースはありますか。

     

    伊地知: うまくいかないケースの典型的な例として、現場の方々がスタートアップと一生懸命に新規事業をつくろうとしていても、最後の役員プレゼンテーションの際に『で、売上はいくらになるの?』という話になるケースです。これは、新規事業の定義やゴールの共有、このプログラムでどのように進めていくのか等が共有されていない場合に起こります。私たちはそういうところをきちんとまとめ、現場と上層部で共有するところから始めます。

     

    瀧島:何のためにがあやふやになる、というのもよくありそうな話ですねえ。大事なポイントですね。少し違った質問になりますが、首都圏だけでなく地方でもイノベーション創出のための取り組みが増えていると感じています。地方の取り組みには、どのような特徴があるのでしょうか。

     

    伊地知: 地域のイノベーション活動の取り組みがすごく増えています。その地域の地方銀行が主体となり旗振りをし、該当地域の中堅企業を複数社集めプログラムを組成し、そこに53,00社のスタートアップをマッチングさせていくというものです。これまで地域プログラムが組成されたエリアは都道府県と市区町村合わせて11エリアで14件のプログラムを開催しています。また、新しく地域プログラムを開催に向けて、話が前向きに進んでいる案件がいくつかあります。私たちはこれを全国の地域企業のDX推進や新規事業創出、スタートアップとのマッチングを進める活動を推進したいと考えており、「47(よんなな)クルーズプロジェクト」というものを立ち上げています。(参照「47(よんなな)クルーズプロジェクト」:https://creww.me/47crewws

     

    継続的なイノベーション活動を通じて、自社のステージをあげていくことが重要

     

    瀧島: 世の中には様々な会社があるなかで、プロジェクトを具体的に、着実に進めていくためには、目的やゴールを定義したり、細かく進捗を測ったりすることを組織の仕組みにしていく必要があるように思いますが、結構大変のように思います。新規事業を創出していく目安として、御社では7つのステージを掲げられていますね。

     

    伊地知: はい。先ほどのゴール設定の話ともつながりますが、当社では『オープンイノベーションの7つのステージ』というものを定義しています。『イノベーション活動のゴールとは、自社のステージをあげていくことにあり、その間に生まれる新規事業などは副産物である』というくらいの話にしないとダメだと思っています。新しくオープンイノベーションに取り組み始めた企業が、一夜にしてこのレベルまで到達することはあり得ません。継続的に取り組んでいくことが重要です。

    例えば、プログラムを通じて自社がどうなっていれば正解なのか、という話は単発で語れるものではありません。「3ヶ年で会社としてどういう状況を目指すべきか」といったように、本来は中長期で考えていくべきものなのです。生み出される新規事業やアウトプットはその間の副産物。プログラム自体は「新しいことが創出される続ける組織に変革していくためのプロセス」における一手法という位置付けなんです。

    この「新しいことが創出される続ける組織に変革していくためのプロセス」をどう見える化させるか、という点で「オープンイノベーションの7つのステージ」という考え方を提唱しています。

      

    7つのステージ 

      

    瀧島:最後に、新規事業創出に取り組む皆様へメッセージをお願いします。

     

    伊地知:個々の活動で生まれた新規事業の規模や粒感をみて『もうやらない』と言った瞬間に、その会社のイノベーション活動は止まります。担当者の異動でゼロリセットされないように、知見を財産として積み上げていく仕組みを構築しなければ、変化を生み出せません。私達は、今回お話しさせていただいたようなポリシーをもってオープンイノベーションに取り組んでおります。ともに頑張っていきましょう。

     

    伊地知氏 (伊地知 天氏 プロフィール) Creww株式会社 代表取締役。
     
    高校、大学を米国で過ごす。カリフォルニア州立大学在学中に起業したことをきっかけに、これまで国内外で合計4社の企業を設立した実績を有す。現在は、スタートアップ・エコシステムの構築やオープンイノベーションに関わる多くの組織やプロジェクトに参画している。
     
    【加盟組織・プロジェクト】
    ・ (社)新経済連盟 幹事
    ・ (社)情報社会デザイン協会 理事
    ・ J-Startup 推薦委員(経産省 × JETRO × NEDO) 
     

      

     
      

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    株式会社サムライインキュベート

    インタビュー

    (インタビュー実施日:2021年4月1日)

    できるできないでなく、やるかやらないかで世界を変える

    できないと思っている人に「機会」を提供し、「環境」を変えて「夢」を実現できる世界をつくり、できるようになった人がその「志」を継承する。大企業とスタートアップの2軸の支援でイノベーションを起こす、株式会社サムライインキュベート 代表取締役 榊原健太郎氏、Partner Enterprise Group 成瀬功一氏に話を伺った。

     

    (左から 榊原 健太郎氏、成瀬 功一氏)

      榊原氏と成瀬氏

     

    オープンイノベーションは、1、2年で結果はでない。継続的に取り組むことが大事

     

    瀧島 勇樹(経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課 課長。以下、瀧島):ここ数年、オープンイノベーションという言葉は浸透してきましたが、うまく活用できている企業、できていない企業、様々だと思います。御社は、国内外のスタートアップと大企業、様々な立場から見ていらっしゃると思いますが、どのような課題感から、事業をはじめられたのでしょうか。

     

    榊原 健太郎(株式会社サムライインキュベ―ト 代表取締役。以下、榊原):私たちは、『誰もやっていないことを一番先んじてやれ』という考えの下、スタートアップやオープンイノベーションのエコシステムを作ってきました。

     

    2008年に創業し、シェアハウス自体ほとんどなかった2009年に、練馬区でシェアハウス型で起業家と一緒に住みながら起業支援・投資活動を始めました。コワーキングスペース黎明期の2011年には、日本初の起業家に特化したコワーキングスペースを作り、2015年頃から日本初のアクセラレータープログラム支援を実施しました。またこれまでに、日本全国と世界14か国で、起業家向けイベントを1,000以上行ってきました。

    日本では、2014年頃シリコンバレーに注目していましたが、当社は同時期にイスラエルに進出し、さらに2018年にはアフリカに進出して、起業支援や大企業と海外スタートアップの連携支援に関する知見を蓄積していきました。

     

    現在当社は、VCとしてスタートアップ支援と大企業向けのイノベーション支援の2軸で活動しています。大企業様へは、コンサルティングの形で新規事業をゼロから作るゼロイチの知見を提供しています。大企業とスタートアップの連携支援、いわゆるオープンイノベーション支援もしており、これまでの共創数は約280件です。また、当社で作った事業数が11件、独立起業件数が10件であり、当社は、約200社のスタートアップに投資してきましたので、全部合わせると約500件の新規事業に関する活動を支援してきました。(編集注:2021年2月末時点)

     

    私たちは、投資や連携支援の経験から、オープンイノベーションも10年取り組んでようやく成果が出るものと考えています。1、2年目で結果が出ないのは当たり前で、継続的に取り組むことが重要です。

     

    瀧島: 10年かけて成果が見えてくるとのことですが、大企業では、社長や取締役の任期、中期経営計画が3年~5年だったりします。もう少し短い期間で、成果の可能性が判断できるようなものがあると、実態としてはプロジェクトを継続していくことがやりやすくなるかなと感じますが、どのようにお考えでしょうか。

     

    榊原: 私は、中期経営計画が3年や5年であることに伴ってその期間で善し悪しを判断してしまうこと自体を変えていかないと本当の意味での新規事業は生まれないと思っています。新規事業に継続的に取り組むためには、経営者が自ら、長期的なビジョンを株主を含めたステークホルダーに説明し、共感を得ることが大切だと考えています。

     

    スケールするような事業かどうかの判断については企業や環境によって様々ですが、10年以上投資してきた経験からお話すると、例えば、100社に投資すると、大体7年目くらいで5社ほどIPOするようなイメージです。しかし企業の中で、年間100もの新規事業を生み出し、スタートアップと同様に全てに全力で7年かけて取り組める企業はなかなかありませんよね。その確度を少しでも上げるために私たちがいるわけです。

     

    また現在、日本のIT系スタートアップは、日本のマーケットで上場することがゴールになっている傾向にあり、外貨を獲得せずに終わることが多いと思います。成功している一部のスタートアップは大きな富を得ていますが、なかなか富の再配分は進んでいません。外貨を獲得できる大企業が、日本や世界のスタートアップを買収したり、投資したりすることで、富の再配分、すなわち次の世代への還元をしているのではないでしょうか。私たちは、スタートアップと大企業のどちらかではなく両輪で支援し、地球規模でエコシステムを構築することが大切だと思っています。

      

     サムライビジョン2030

      

    小さな仕組みの導入を繰り返すことで組織を変革し、イノベーションを起こす

     

    瀧島:大企業もドライバーになってほしいというのはすごく共感します。一方で、大企業は、スタートアップのように目的を共有した人が集まっているわけでもないため、大企業特有の新規事業開発の難しさがあると思います。大企業がイノベーションにつながる新規事業を創出するためには、どのようなことに気を付けるとよいとお考えでしょうか。

     

    成瀬 功一(株式会社サムライインキュベ―ト Partner Enterprise Group。以下、成瀬):多くの企業がイノベーションの取り組みを始めて数年程度のため、今の時点で、取り組みに失敗するのは当たり前だと思います。現状は、イノベーションに取り組む意思を示し予算は確保したが、戦略も組織もこれまでと変わらず、イノベーションにフィットしていない企業がほとんどである認識です

     

    この数年で、新規事業に人材や資金を配分したり、外部の異なる文化やナレッジを積極的に取り入れる企業が増えています。企業の皆様は、イノベーションをつくる組織や制度を作らないといけないとご認識され、部分的にやれるところからやっている状況だと思います。挑戦して失敗したことをそのまま終わらせずに、イノベーションにつながる新規事業を量産できる『仕組み』作りに反映していくことが重要です。『3年ほどやって駄目だった』で終わる企業は、永遠にイノベーションを起こせないと感じています。

     

    大企業は、数多くのアイデアや技術を持っていますが、事業化しスケールできていない状況であると思います。また、大企業イノベーションを支援するプレイヤーで、「事業化」までを本格的に支援できるプレイヤーはいない認識であり、当社は、インキュベーターとして多くの起業家を発掘・育成し上場やM&Aを実現してきたナレッジを活かし「事業化」に強みを持った事業展開をしています。

     

    今の組織状態を是とせずに、『トライしながら組織にフィードバックをかけていく』ことができるかどうかで、10年後、大きく差が開くと思います。

     

    瀧島: どうすれば、大企業の有する数多くのアイデアや技術を、事業化、スケール化することができるのでしょうか。

     

    成瀬: 当社は、大企業の中にベンチャーキャピタル(VC)の手法を多分に活かしたモデルが必要ではないかと思います。例えば、イノベーションのマネジメントでは、通常のデータに基づいて精緻な計画をしPDCAを回して軌道修正していくような考え方では大きな成果を産めないため、VCのように将来を予測しつつ全ての狙いが成功するわけではない前提でポートフォリオ型で分散投資とマネジメントしていくような経営スタイルが必要と考えています。

    我々の投資先は200社以上で、既に約40社イグジットしましたが、数百億円規模の事業にスケールしたものもあります。その経験を生かして、企業のイノベーションポートフォリオ構築や、個別領域ごとにスタートアップを見極める目利きの支援や、ファイナンスを統合させたインキュベーションも提供しています。

     

    例えば、大企業の戦略や組織作りから入ることもあれば、事業を生みだす新規事業開発プロジェクトやアクセラプログラムなどの新事業の種を生み出すことからスタートすることもあれば、社内の技術・人材から社内スタートアップを生み出す支援も行うこともあります。いずれにおいても、生み出した事業をその後の事業化まで一気通貫で支援していけることが我々独自の特徴です。

     

    瀧島:戦略や組織作りというような形から入ろうとすると、社員がついて行けなかったり、マネタイズする事業になるまでに時間がかかったりして、新規事業活動がうまくいきにくいケースもあると感じています。大企業の様々な部門からご相談があると思いますが、どのようなところから、新規事業活動を始めることが多いのでしょうか。

     

    成瀬: 『新しい事業をつくりたい』というご相談が多いですが、「戦略や組織づくり」の相談もあります。いきなり戦略や組織からつくろうとすると、多様な関係者があれもこれもと網羅的にカバーしようとしすぎて、結局誰も実行できない夢物語になっているケースを見かけます。まずは、実弾として事業創出を始め、その事業の成長・加速に必要な仕組みを小さく作って導入するということを繰り返して、段階的に組織もつくっていくようにするのが実現性とスピードを兼ねた組織変革の方法です。

     

    事業をスケールするためには、ファイナンスの知識を身につけることが重要です。日本の大企業は、これまで自前主義で成功してきたため、海外の大企業に比べて投資やM&Aなどファイナンスのスキームを活用して外部の事業を取りんで成長する経験が圧倒的に少ないです。手法やマインドの異なるものを融合し新規事業を生み出す仕組みがないと、現在の変化の速さ、新しい事業の生まれる早さの中で、競争力のある事業を量産することができないと思います。

       サムライのサービス

      

    失敗を許容し、失敗から学ぶ文化がなければ、イノベーション活動はできない

     

    瀧島: 組織変革の必要性を頭では理解していても、実際に実行していくことは容易ではないと思います。どのようなことに気をつけながら仕組みを構築していくとよいとお考えでしょうか。

     

    成瀬: 新規事業と既存事業の仕組みが異なることを認識し、具体的な制度を構築していくことが重要です。例えば、イノベーティブやディスラプティブなビジネスは、スピード感で勝負が決まると思います。オープンイノベーションにおいても、大企業側が協業するスタートアップと同じスピード感で動き・意思決定できなければ、共同開発もまともに進まないです。

     

    そのためには、現場に権限委譲することも大切です。権限委譲するためには、適切なKPIや撤退判断も含めて現場と上層部が合意しておかないと、上層部も権限委譲できないと思います。

     

    失敗を許容でき、失敗から学べる文化を本気で作らなければ、イノベーション活動はできません。それが可能になる人事評価制度の構築が必要ですし、長期的に社員のやる気を引き出し続けるには、既存組織のようなローリスクローリターンなものでなくハイリスクハイリターンな成果報酬を適用することも真剣に考えないといけません。例えば、既存事業ご担当の方が新規事業の方と交流したり、新規事業部やスタートアップに出向・兼務するなどし、実際に経験するとよいのではないかと思います。

     

    瀧島: 最後に、新規事業創出に取り組む皆様へメッセージをお願いします。

     

    成瀬: イノベーション活動で成果を出せるのは、たくさんトライして失敗してきている企業です。現場の失敗を許容し、数多くのトライをいきなり実行できる企業は、まだ一部の先進的な企業に限られると思います。多くの企業は年間に10件くらいのトライが多い方ですが、新事業やスタートアップの成功確率を考えると、もっともっと多くのトライを実行する必要があります。また、失敗を失敗として終わらせずに組織の仕組み作りに反映できる企業が成功すると考えていますので、ローンチする前から社内の議論に終始するような形を避け、リスクをとってどんどん外に出していく仕組みを一緒に考えられたらと思います。

     

    榊原: 企業内で新規事業をつくるときは、人事制度やインセンティブも同時に考え、事業案が実現する形を作ることもちろん、組織や担当者のモチベーションを維持することも大切です。起業家は大きなリターンがあるからこそ頑張れます。多くのリソースを持っている大企業内のリソースを活用することで、世界を変えるスピードは各段に速くなると思います。私たちの支援が、新たな未来を作ろうとする人々の助けになれば幸いです。

     

     

     
    (榊原 健太郎氏 プロフィール)
    ・株式会社サムライインキュベート 代表取締役。
    1974年、名古屋生まれ。関西大学社会学部卒業後、大手医療機器メーカーや創業期のアクシブドットコム(現 VOYAGE GROUP)での営業統括等を経て、2008年にサムライインキュベートを設立。
    「できるできないでなく、やるかやらないかで世界を変える」をミッションに創業期の起業家から出資・成長支援を行い、日本だけでなくイスラエル、アフリカにも進出。日経産業新聞の寄稿や業界イベントにおいて多くの講演・審査員も行う。著書に「20代の起業論」がある。
     
    (成瀬 功一氏 プロフィール)
    ・株式会社サムライインキュベート Partner Enterprise Group。
    1985年生まれ、愛知県出身。
    2010年、大手組織コンサル会社へ入社し「新規メディア事業立ち上げから営業・運営」を実施、組織コンサルティングも経験。2013年、外資系コンサルティング会社へ移り、大企業イノベーションに関わるプロジェクトを多数経験。並行して、日本の複数スタートアップに対する立上げ支援〜インキュベーションを多数実施。某大企業主催アクセラレータプログラムへスタートアップ側として参加し、採択企業に選ばれた経験を持つ。
    2018年よりサムライインキュベートに参画。大企業のオープンイノベーションやイノベーション人材育成等、事業創出支援を担うGroupを率い、日本と海外の連携・協業を積極的に行う。
     
     

      

     
      

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    株式会社ゼロワンブースター

    インタビュー

    (インタビュー実施日:2021年3月16日)

    今こそ、チャレンジャーになる時

    オープンイノベーション成功のために、大企業とスタートアップ、双方の文化と行動様式を理解してアクセラレートし未来を創る、株式会社ゼロワンブースター 代表取締役CEO 鈴木規文氏に話を伺った。

     

    (鈴木 規文氏)

    鈴木代表  

     

    合理的に整然と新規事業は生まれない。良質で偶発性に富む環境が重要

     

    瀧島 勇樹(経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課 課長。以下、瀧島):イノベーションを起こすためにはセレンディピティが大切と言われていますが、大手企業がセレンディピティの起こりやすい環境を作り、新規事業を創出していくことは容易ではないと感じています。どのような課題を感じられ、大手企業を独立し、事業をはじめられたのでしょうか。

     

    鈴木 規文(株式会社ゼロワンブースター 代表取締役CEO。以下、鈴木): 元々はビジネススクールの卒業生達による、土日夜を使ってビジネスプランのたたき合いをやっているコミュニティーでした。機が熟し、皆が所属していた大手企業を辞めて起業する際に、ワンフロアを借りてオフィスとしたところからスタートしました。

     

    当時の理念として、『この世の中は資源が相当偏在しており、それらが効率良く出会う場が必要だ』ということに加え、『多様な人が集まる環境を作り、その中で事業を興す方が、事業創造における資源調達可能性やチャンスが高まるだろう』ということをイメージしていました。

     

    事業は、合理的に整然と生み出されるものではなく、自身の力量に加え、『色々な人材が交流する中で、偶発的な要素が必要であろう』と感じていました。このため、自分の近くにいかに良質な偶発性に富む環境をつくれるかを意識し、オフィスに皆が足しげく通ってくれるような雰囲気づくりを目指しました。これは、私が築地の魚河岸の一族として、多様な人が集まり交差する市場で育ったことも影響したかもしれません。

     

    瀧島:とても共感できる取り組みですね。ここ10年間で、創業時に感じられていた課題感は変化しましたか。

     

    鈴木: 試行錯誤はありましたが、当初掲げた理念にずれはありません。日本では、事業創造に貢献する良質な資源が大手企業に偏って存在する、という課題があると考えています。人材、技術、知財、色々なチャネル、ブランド、法規制への対応など、基本的に大手企業に偏在しています。この資源をいかに最適な比較優位性がある人に寄せるか、ということに取り組んできました。

     

    イノベーションの種を見出し育てるためには、異なる仕事の進め方の実体験が重要

     

    瀧島: そのとおりですよね。ではその中で、大手企業が、資源を活用して新規事業を創出していくためには、どのようにしたらよいとお考えでしょうか。

     

    鈴木: 大手企業は本業を骨太にお持ちです。本業を太らせて最適化するために事業活動を進めていますが、イノベーションを起こすには、一部その本業を毀損して取り組むという意思決定をしなければなりません。そうすると、合理的にイノベーションを起こせないというイノベーションのジレンマにはまります。ゆえに、イノベーションの種は沢山あるものの、大手企業の中でなかなか育たないということが言えると思います。

     

    知の探索と進化、両利きの経営という言葉は知っていても、実現の難易度は高いです。頭で分かっていることが意思決定につながるかというと、別問題かと思います。事業創造やイノベーションを進めるということは、会社全体の文化、風土、行動特性などを含めた活動だと思っていますので、そこに影響を与えられる経営層によるトップマネジメントが大切です。

     

    瀧島:安定した組織こそ変化を恐れるのは自然なので、組織を変革していくことは難しいと感じています。様々な企業と一緒に活動されていると思いますが、大手企業は、どのようなことをきっかけに、変わっていくことが多いのでしょうか。

     

    鈴木:原体験だと思います。日本はバブル崩壊してからの30年間、多くの大手企業がバブル時代の多角化を反省し、集中戦略を取りました。これにより、部長・課長さんクラスが新規事業の経験がないケースが多く、今までのオペレーションを忠実にこなす活動が中心になりました。新しい事業をつくる、ゼロから1をつくることで、既存のオペレーションとは異なる仕事の進め方を経験することが極めて重要ですので、その体験の提供を当社が行い、変化を促して事業を興すサポートをしています。

     

    瀧島:どのような業種でも、体験により変化していくのでしょうか。

     

    鈴木: 当社の主なオープンイノベーション活動としては、コーポレートアクセラレーター、すなわちご一緒できるスタートアップをソーシングし、一緒に事業を起こすというものがあります。また、イントラプレナーのアクセラレーターも行っており、事業をつくるという実体験プロセスを通じて社内に働きかける、リアルな事業をネタにした教育活動を行っています。

     

    当社のアクセラレータープログラムは産業分野に偏りはなく、あらゆる分野で成り立ちます。この産業分野が良い/悪いというよりも、意思決定をされたトップマネジメントのメンタリティの方が大きな影響を与えるため、あらゆる分野の方とご一緒しています。

      

      社内起業・統合事業創造プログラム

      

    やりたいという意志を持った社員(カタリスト)が会社を変えていく

     

    瀧島: 事業創出の体験を通じて、大手企業がどのように変化していくのか、具体的な事例を教えていただけますか。

     

    鈴木: 大手企業とスタートアップとのオープンイノベーションで事業を生む・成長するという事例は数多くありますが、それとともに『何が起こるか』が重要です。

     

    スタートアップ連携の1年目に、大手企業の社内に『カタリスト』という、社内の資源とスタートアップのかけ橋になる担当をアサインしてもらいます。そのカタリストがスタートアップを支援する活動をしていくことで、事業創出の体験・経験をしていくのです。その結果、カタリストが社内で新規事業をつくることやイノベーション活動とは何たるかを、良く理解できるようになります。これは効果絶大です。既存のオペレーションではない、今まで経験したことがない新しい事業をつくる現場に連れていくことをアクセラレータープログラムで実現しているのです。

     

    カタリストは20代から40代前半までが多いですが、これはスタートアップが傾向的に若いことによります。一方で、50代でカタリストをやってすごく綺麗にはまる方もおられ、年齢や世代で一概に切れません。また、カタリストの選定では『やりたいという意志』が最も重要な要素で、企業様には手挙げ制でお願いしています。

     

    瀧島: 意志って大事ですよね。大きな組織は意志を持つことよりも、オペレーションをしっかりまわす機械になることを求めてしまうところがありますからね。意思をだんだん忘れてしまったりします。新規事業創出のために、座学を取り入れている企業も多いと思います。実体験することでしか得られないことは何でしょうか。

     

    鈴木: 事業創造のリアリティがわかる、ということだと思います。企業様によって異なりますが、大体4カ月から6カ月くらいプログラムを行う中で、カタリストは、座学とは異なるリアリティのある環境でスタートアップの“異質な”人たちと関わり、『感じる』ことをします。すなわち、価値基準も意思決定プロセスも異なる、自分とは全く異なる属性の人たちとの関わり合いの中で感じる心の揺れです。

     

    私たちはスタートアップに加え、カタリストにも伴走します。アクセラレーション期間中、彼らに教育プログラムをやり続け、定例ミーティングを開いてサポートします。当社のアクセラレータープログラムでは、スタートアップを支援すると共に、企業様の社内のイノベーションを生み育てる環境づくりを支援しています。

     

    スタートアップ支援は、大手企業の資源の受け渡し調整やメンタリングなど、スタートアップに合わせた支援を行います。カタリスト支援では、そのスタートアップを育てるプロセスを一緒に踏みながら、定期的にセミナーや定例ミーティング等を開き、心の動き・悩みを聞く等の定点観測活動をしています。

     

    何かすごいことが行われているのではない。「自分にもできる」という気づきの連鎖をつくる

     

    瀧島:大手企業の社員(カタリスト)とスタートアップが一緒に活動をする際、様々な悩みが出てくると思います。スタートアップ・カタリスト・御社がコミュニケーションをとれる場をつくることも大切ですね。

     

    鈴木: はい。その場で、特に大手企業の社員さんに行動変容やマインドセット変容が起こります。これまでスタートアップ側にポジションを取っていなかった時は、猜疑心をもってスタートアップを見るものです。この意識が180度変わり、スタートアップのためにどうやって資源を持っていくか“自分の会社を口説く”ポジションになります。この経験をすることがすごく大事です。

     

    事業部単位では、設定された目的や行動が制限されているために他のことができない等、いわゆる“狭い目標”のために動いている社員さんは多いと思います。新しい価値創造をするという“違う目的”で活動する経験がないなかで、会社としてオフィシャルに「やってよい」と言われると、実は皆けっこう喜んでやるのです。

     

    さらに、スタートアップの経営者のように、より高い概念、社会課題を解決したいと目の色を変えた人たちに触れることで、当初の狭い目標は何だったのかというリフレクションが起こります。ミッションドリヴンになり、自分の意志で物事を動かそうとする社内のイントラプレナーになっていくのです。

     

    瀧島: 今まで機会が無くて諦めていた人も、皆とやることでマインドセットが変わり、1歩飛び出せたということですね。

     

    鈴木: そうです。イノベーションは『何かすごいことが行われている』のではなく、『こういうことなのか、これなら私にもできるよ!』という気づきが背中を押すのだと思っています。日本は歴史的に大手企業にタレントが集まっていますので、あとはスタートアップから得られる気づきの連鎖がカギとなります。

       ベンチャー連携プログラム

     

    アフォーダブルロスを定め、やってよいと、経営層が社員を後押しする

     

    瀧島: オープンイノベーションは、単に何かを組み合わせるだけではうまくいかないと感じています。多様な人材が関わりながら取り組める環境を構築し、何かを生み出していくためには、組織としての判断が必要になると思います。オープンイノベーションを組織の中でうまく活用するためは、経営者はどのようなことに気を付けたらよいとお考えでしょうか。

     

    鈴木: オープンイノベーションを『短期的かつ一定確度の合理性の下でできるもの』という期待を持つ方が多いのですが、それではうまくいきません。うまく行くケースは『期待値の時間軸を長くとる』ことです。ある程度のアフォーダブルロスを定め、やってよいという覚悟がマネジメント側にできているか、応援できるかどうかが重要です。

     

    『この2年でやりなさい』と言っても無理で、もしできたとしてもそれは奇跡です。日本企業はその奇跡をベンチマークにしてしまいがちです。

     

    瀧島: 最後に、新規事業創出に取り組む皆様へメッセージをお願いします。

     

    鈴木: 小さくてもトライ・アンド・エラーを常に継続した企業が、結果としてイノベーションを生んでいるのは事実です。足踏みをせず、ぜひオープンイノベーション、イノベーション活動を一緒に盛り上げていただきたいです。皆さん一緒に、日本を元気に、よりよくしていきましょう。

     

    (鈴木 規文氏 プロフィール)

    ・株式会社ゼロワンブースター 代表取締役CEO

    99年カルチュアル・コンビニエンス・クラブ入社、管理部門を統括するコーポレート管理室長。

    東証マザース上場、東証1部指定替えプロジェクトメンバー。06年エムアウトにおいてアフタースクール事業「キッズベースキャンプ」を創業するとともに、兼務で新規事業開発シニアディレクターを歴任。同事業を東急電鉄に売却、3年間のPMIを経て、同社取締役退任後、11年事業創造アクセラレーター01Boosterを創業し、起業家⽀援、企業向け新規事業開発⽀援事業を⾏っている。2009年グロービス経営⼤学院アルムナイアワード受賞。

    URL: https://01booster.co.jp/

     

     

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    ナインシグマ・ホールディングス株式会社

    インタビュー

    (インタビュー実施日:2021年3月26日)

    オープンイノベーションをプロセス化し、継続的に成果を出す組織に変革する

    世界105か国のグローバルなネットワークを駆使し、顧客の技術課題を見極め、顧客と一体となり最適解を見つけていく、株式会社ナインシグマ・ホールディングス 代表取締役社長 諏訪暁彦氏に話を伺った。

      

    (諏訪 暁彦氏)

      諏訪代表

     

    オープンイノベーションは、成功体験の構築にとどまらず、プロセス化することが重要

     

    瀧島 勇樹(経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課 課長。以下、瀧島):オープンイノベーションに取り組む企業が増えていますが、取り組むこと自体が目的化していたり、期待する成果を出せずに悩んでいたりする企業は少なくないように感じています。オープンイノベーションで成果をあげる鍵について、どのようにお考えでしょうか。

     

    諏訪 暁彦(株式会社ナインシグマ・ホールディングス 代表取締役社長。以下、諏訪):世界的に組織的に大きな成果を上げている企業のオープンイノベーションの状況をみると、『とにかく成功体験をつくる』ところから始める必要があると思います。最初はいろいろな形のオープンイノベーションを実践してみて、『何が機能するのか/機能しないのか』を確かめてみることです。

     

    オープンイノベーションの取組みが進んでいる先進的な企業は、オープンイノベーションに対してジャーニー(journey)という言い方をします。1回やってみてうまくいった/いかないというよりも、色々やりながら自社で機能するものを見出だしていくのです。

     

    日本の多くの企業が、まだオープンイノベーション“ごっこ”をやっていると言われるのは、ひたすらこの成功体験の構築をちょこちょことやろうとしている状況なのだと思います。『そこからステップアップする』ことが、海外の先進的な企業と比較して足りていないのです。一度、ある程度の成功体験が出そろえば、『それが会社の成長戦略においてどういう位置づけになるのか、どう役立てるのか』をしっかり経営層にあげて合意でき、ステップアップにつながります。

     

    最初のトライアルは会社にとってインパクトの起こる規模にはならないのですが、『成功体験を型化、プロセス化』することで、より多くの社員が実践できる、インパクトの大きな活動にしていきます。『成長目標に合わせてスキルアップが必要な成功体験をプロセス化して、標準的な業務の一部としてやっていく』ことが必要です。

    例えばP&Gが、「70%のプロジェクトにおいて社外のイノベーションを活用する」という目標を達成できているのは、幾つかの成功体験をプロセス化し、それを回すだけで、特に優秀な人でなくてもある程度の成功体験を築ける仕組みを確立しているためです。

     

    瀧島: 海外の先進的な企業に比べて日本企業は遅れていると言われていますが、いろんなトライアルをやっていることについてはポジティブに捉えて良いのでしょうか。次の段階に進みましょうと言えるところまで来ているのでしょうか。

     

    諏訪: トライアルをやっているのは良いのですが、一方で、トライアルで会社の全体方針にもっていけるだけの成功体験を築けていない会社が多いのも事実だと思います。オープンイノベーションにおいて、大企業が持っている通常の『スキル、経験、アセット』だけでは、経営層が注目するような自社の成功体験に築けないのです。通常の企業活動とは異なるスキル・経験・アセットが必要になり、これを用意していないと成功体験は築けません。

     

    オープンイノベーションは目的ではなく手段です。まず、自分達だけでできないことに対してオープンイノベーションで成果をあげたいという目的があり、その目的に合わせて、オープンイノベーションという手段をどう使っていくのか選ぶ必要があります。CVCや、私たちのような仲介支援事業者を活用することで、技術やアイデアを発掘して取り込んで目的や課題をオープンイノベーション活動に翻訳していくことが必要です。

      

    オープンイノベーションで組織的に大きな成果をあげるためのステップ

    成果を上げるためのステップ 

     

    様々な形の成功体験を積み上げ、自社の目的に適した手法を特定していく

     

    瀧島: オープンイノベーションの手法は多岐に渡り、企業が自社の目的に適した手法を選ぶことは難しいと感じています。企業がオープンイノベーションの成功体験を築き、プロセス化するためには、どのように進めていくとよいでしょうか。

     

    諏訪:多くの企業の皆様が『型化、プロセス化』するための成功体験づくりを非常に難しいと考えています。そのため、昨年から集中的に『メンバー型(クライアントメンバー型)オープンイノベーション支援プログラム』を始めました(※1)。当社の社員が企業様のプロジェクトメンバーの一員として、週に1日から2.5日程度、参加します。プロジェクトの目的を理解したうえで、多様なオープンイノベーションの手法の中から適切な手法を使い、成功体験を築いていくことで、その成功の型(プロセス)を企業様に継承する伴走型プログラムです。

    (※1 メンバー型オープンイノベーション支援プログラムhttps://ninesigma.co.jp/service/partnership/

     

    瀧島: 例えば、今、議論されているISO56002では、実現したい未来像・目的を明確にし、試行錯誤し、価値を生み出す全ての過程がイノベーション活動であると考えられています。オープンイノベーション活動も幅広く捉えると、成功体験には様々な形があるように思いますが、どのようにお考えでしょうか。

     

    諏訪: オープンイノベーション活動の対象は、事業で直接的に収益を上げる部分だけではありません。「機会の特定」、「コンセプトの創造・検証」の段階から企業の皆様とご一緒させていただき、それぞれのフェーズの目的がよりよく達成できるよう取り組んでいます。2020年は新たに国内で20社以上の企業様と一緒に取組みを始めました。

     

    例えば、とある企業様から、最初の「コンセプト創造」のフェーズで多くのプロジェクトが進んでいるが、市場の有無やお客様の価値を本当に捉えられているのか、社内だけでは検証が十分にできていない、とのご相談がありました。当社の外部ネットワークに、企業様の仮説を投げかけ、数十テーマについて一緒に、企業様の課題や潜在顧客ニーズを検証しました。個々のテーマを成功させることも大切ですが、この活動を現場に根付かせる『仕組み化』が重要です。

     

    当社が一から百まで、永久にコンサルティング的に入り込んでもうまくいかないと考えています。『成功体験のプロセス化』に向けた活動として、最初は、企業様の悩みを共有していただき、当社の社員と共に試行錯誤しながら、成功するパターンをテンプレート化します。企業様によって状況が全く違うため、各企業様自身が実践できるような形にテンプレ化、型化することが大切です。当社が活用する「仮説検証のためのオープンイノベーションに関するプラットフォーム」はもともと社内スタッフが活用するツールでしたが、企業様自身でお使いいただいた方が『成功体験のプロセス化』のためにはよいのではないかと考え、企業様自身でもお使いできるようなシステムに進化させています。

     

    瀧島: 企業の皆様と一緒に取り組んでおられるのですね。オープンイノベーションは、協業先と一緒に取り組むことも大切だと思いますが、適切な協業先と出会い、事業を創出していくことは容易ではないと感じています。どのようにして協業先を見つけ、成功体験につなげていくのか、具体的な事例を教えていただけますか。

     

    諏訪:そうですね。事例として、「ソリューション開発」のフェーズの話をご紹介します。消費者むけ製品を作る企業様で、バイオプラスチックの量産化を検討しており、要件に合致する技術を有し、かつ協業を希望している相手を紹介してほしいというご相談でした。有名・有望な候補先は既に他と組んでおり、『その他に有望なところがあるのか』という問題が生じました。

     

    当社の世界規模のオープンイノベーションに関するネットワークを活用しつつ、第三者評価を何度か実施することで、一般情報では分からない情報が得られ、当初は過小評価していた候補先が実際は有望だったことがわかりました。その候補先が本当に協業してくれるのかという部分は難しい点ですが、当社がその交渉を一緒に行いながら、候補先とのパートナーリングの話を進めています。

     

    このように、オープンイノベーションの成功例をつくるというのは、様々なスキルやネットワークを複雑に使いこなす必要があります。それができないとなかなか成功体験はできないのです。会社の中で突然、『君たちは今日からオープンイノベーションの担当だから、うまく頑張るように』と言われても、そうできるものではないと考えています。

     

    ナインシグマの世界規模のネットワーク:返答者の国、組織の内訳

    ナインシグマのネットワーク

     

    プラットフォームを活用することで、失敗のリスクを抑えながら、成功体験につなげる

     

    瀧島:現在、オープンイノベーションを促進するためのプラットフォームが数多く存在していると思います。企業は、どのようにプラットフォームを選んで、成功体験を築いていくとよいでしょうか。

     

    諏訪: 当社は、技術やパートナーを発掘するグローバルなプラットフォーム「NineSights(ナインサイツ)」を2000年来から築いてきました(※2)。ナインサイツは、クライアント企業の技術とニーズを公開し、ソリューションを提供できる企業とのマッチングを促す場です。例えば、ナインサイツを活用することで、関西電力様がドイツのスタートアップと連携し、都市型モビリティサービス『iino』を導入し、実証実験を行っています。

    (※2 ナインサイツ https://ninesights.ninesigma.com/servlet/hype/IMT?userAction=BrowseCurrentUser&templateName=MenuItem

     

    ここ数年は、技術知見・アイデアの収集や、あらゆる分野の有識者による技術に関わる第三者評価を行うプラットフォーム「オープンイノベーションカウンシル」の構築に力を入れています(※3)。「オープンイノベーションカウンシル」は、業界で最先端の知見をもつ世界的な大手企業のマネージャー層からなる「オープンイノベーションカウンシルメンバー」のコミュニティと、手軽につながることができるプラットフォームです。『①自社技術の新規用途探索、②海外市場ニーズ調査、③技術トレンド調査、④スタートアップの第三者評価』について問いかけると、1~2週間で回答を得ることができます。

    (※3 オープンイノベーションカウンシル https://www.open-innovation-council.com/ )

     

    2つのプラットフォームを使うことで、単なる提案にとどまるのではなく、豊富な経験をもとに企業様の一緒にオープンイノベーションを実践し、失敗のリスクを抑えながら答えを出していくことができます。

     

    瀧島:御社のプラットフォームには、オープンイノベーション活動に相応しい方が多く登録されていると聞いています。その体制を維持するにあたって、どのような点に気を付けておられるのでしょうか。

     

    諏訪: 当社の「ナインサイツ」では、世界250万人規模の研究者や技術者のネットワークにリーチしており、登録者の約2割が大手企業の方です。そのようなコミュニティからオープンイノベーションに熱心な方をリクルーティングできたところが、「オープンイノベーションカウンシル」構築の大きなきっかけになったと思います。「オープンイノベーションカウンシル」にご登録いただいている方から、当社のオンラインサーベイの質問は知的好奇心をかき立てられ面白い、自身の技術的知見が役立つ、視野を広げられる、というお話を伺っており、無理のない範囲で、楽しみながらご協力いただいております。

     

    オープンイノベーションカウンシルの活用パターン

    パターン  

    誰がやっても成功体験を築けるように、仕組み化することが大切

     

    瀧島: 最後に、新規事業創出に取り組む皆様へメッセージをお願いします。

     

    諏訪: オープンイノベーション活動を多くの企業の皆様が実践され、難しさも痛感されていると思います。グローバルでみても、一部の先進的な企業を除く多くの企業がまだオープンイノベーションをうまく使いこなせていない状況にあると思います。

     

    最も難しいのは足りない『スキル』を補い、組織的に展開するに値する成功体験を築く部分だと思います。そのうえで、プロセス化や役割の明確化をしっかりと行って仕組み化し、どんな人にでもできるようにすることが大切です。ともに頑張っていきましょう。

     

    (諏訪 暁彦氏 プロフィール)

    ・ナインシグマ・ホールディングス株式会社 代表取締役社長

    マサチューセッツ工科大学大学院 材料工学部修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、日本総合研究所を経て、2006年にナインシグマ・ジャパン(現ナインシグマ・アジアパシフィック)を設立、代表取締役社長に就任。2017年にナインシグマ・ホールディングスを設立、代表取締役社長に就任。

    日本にまだ、オープンイノベーションという言葉が広まる前の2003年よりオープンイノベーション普及活動をスタートした日本のオープンイノベーションのパイオニア。これまで議論してきた大手企業の役員は500人を超え、200社、1000件規模のプロジェクトの実践を通じ、日本のオープンイノベーションについては誰よりも深く全体像を把握している。(ホームページより引用)

    URL:https://ninesigma.co.jp/

     

     

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    BASE Q(三井不動産株式会社)

    インタビュー

    (インタビュー実施日:2021年3月31日)

    オープンイノベーションをプロセス化し、継続的に成果を出す組織に変革する

    企業状況や課題に応じて個別オーダーメードで伴走する、三井不動産株式会社 BASE Q 運営責任者 光村圭一郎氏に話を伺った。

     

      (光村 圭一郎氏) 

    光村氏

     

     

    大手企業とスタートアップの双方の課題を解決し、日本型のイノベーションを起こす

     

    瀧島 勇樹(経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課 課長。以下、瀧島): オープンイノベーションを使ってイノベーション創出を目指す企業が増えていますが、自社と連携先のお互いの強みを活かしながら事業を創出していくことは難しいと感じています。連携に関しては様々な課題があると思いますが、どのような課題意識からBASE Qを始められたのでしょうか。

     

    光村 圭一郎(三井不動産株式会社 BASE Q運営責任者。以下、光村): 日本のイノベーションを促進していくためには、スタートアップと大手企業の連携が不可欠であると考えています。一方、この数年、オープンイノベーションが1つのブームとして行われていたと思いますが、大手企業、スタートアップ双方に課題をかかえており、容易ではないと感じています。

     

    大手企業側の課題は、新規事業をつくったり、オープンイノベーションしたりすることに対する「経験・知識・アイデアの不足」、そして「人材の不足」、またそれを動かしていく「仕組みの不足」があります。スタートアップ側の課題は、スタートアップ単体として成長するために必要なリソース提供が日本では十分ではないという認識や、これを解決するために大手企業と組もうとした時に、必要なスキルが高いわけではない点があります。

     

    このように、お互い不得意なことが存在し、その部分をうまく仲立ちするような役割が必要ではないかと考えました。仲立ちの結果、スタートアップの優れた意欲的なアイデア、革新のイメージと、大手企業が現に持っているリソース、ポテンシャルをお互いが存分に発揮しながらイノベーションを起こしていき、“日本型”のイノベーションの起こし方、戦い方を実現していきたいという思いで始めました。

     

    社内にイノベーションを起こす3大要素「アイデア」「人材」「仕組み」を組み上げる

     

    瀧島: 具体的に、どのようなところが大手企業側で不足しているとお考えでしょうか。

     

    光村:大手企業が新規事業を立ち上げるとき、イノベーションを起こしたいときに備えなければいけない要素は、「アイデア」「人材」「仕組み」の3つだと考えています。その中で、特に掘り下げるべきは「良いアイデアとは何か、定義すること」です。

    良いアイデアを考えることとは、新規事業やイノベーション活動を通じて、会社が何を手に入れてどのような絵姿になっていくのか、「未来の予想図」を定めることとリンクします。

     

    まず、未来において、自社がどのような存在になり、どのような価値を社会に対して提供するのかというイメージを持つことが重要です。次に、そのイメージを実現するために必要な要素が浮かび上がってくると思います。そして、必要な要素を、自前で作るのか、外部と連携しながら作るのか、外部から取り入れるのか等の選択肢がでてきます。この未来ビジョンと、獲得すべき要素を整理しないままのオープンイノベーションは、方法論の目的化であると考えています。

     

    良いアイデアを定義し、それを実現するための行動の質を高めるためには、良い戦略も必要です。アイデアを生む、もしくは大きくするために良い人材が要ります。良いアイデア、良い人材の循環を加速するために良い仕組みが要ります。

    日本の大手企業で、戦略があり、それに基づいてアイデアを絞り込んで、人材、仕組みに関しても従順に動ける企業は、多くないと感じています。何かが欠けている、もしくは全部が欠けているため、ここを正していくことが重要であると考えています。

     

    「アイデア」「人材」「仕組み」を組み上げるのは時間がかかるものですが、可能な限り早く適切に組み上げましょう、決してそこから逃げてはいけない、という姿勢で伴走しています。個社の状況を見ながら丁寧に伴走をして、「アイデア」「人材」「仕組み」の全面的なアップデートを図っています。

     


    プログラム

     

     

    イノベーションに特効薬はない。歴史、風土、文化等を踏まえ、自社流の最適解を模索する

     

    瀧島:大手企業が、「アイデア」「人材」「仕組み」をアップデートする際に、気をつけることはありますか。

     

    光村:大手企業は基本的には合理的に運営されているので、不確実性が高いイノベーションに取り組むことが不得手であるということです。したがって、大手企業が「普通」にやったのでは、イノベーションは生まれません。いかに「普通」を排した新しい方法をつくっていけるかという意識を持つことが大切です。

     

    また、イノベーションに特効薬はない、ということも認識すべきです。大手企業には会社ごとに歴史があり、風土があります。その個別性を意識して、自社流の最適解をつくる必要があります。

    何かの型にはめれば自動的に答えがでる関数をやっているわけではなく、いかに個社の現実に寄り添いながら、しかし理想に近い進め方をしていくことに対して、オーダーメードで、それぞれに合った解を探していければと考えています。

     

    さらに言えば、大手企業は組織構造が複雑なため、良いアイデアだから承認されるというわけでないと思います。単純に“良い”という理由だけでは通らないところを乗り越えていくための工夫も必要です。

     

     

    瀧島:大手企業特有の課題を踏まえつつ、どのような形で最適解を探していくのか、具体的な事例を教えていただけませんか。

     

    光村:例えばこの2〜3年、新規事業の取り組んできた大手企業に、新たにBASE Qとして支援させていただいたケースをご紹介します。

     

    その会社ではもともと、8つ程度の新規事業領域を設定した上で、それぞれの領域で具体的にどんな事業を立ち上げるかというアイデア出しを行い、個別に検証しながら立ち上げるという方法論を採っていました。しかし、この方法では事業の立ち上げに非常に時間がかかり、マンパワーも投入しているのにも関わらず、量産できる仕組みにはなっていませんでした。同様のやり方で新規事業を立ち上げていくのは埒が明かない、という問題意識をかかえていました。

     

    そこで、改めて戦略を練り直したいというご相談を受けましたので、8つの領域を定めた経緯や事業立ち上げの仕組み、経営層の関わり方、社員のモチベーション、スキル、さらにはそのような仕組みが生まれる会社文化等の背景に至るまで、きめ細かくお話を伺いました。同時に、そろそろ結果を求められそうだというスケジュール感覚も合わせ、新たな方法を検討し、結果的に、一定程度成長しているスタートアップとの協業によって、事業立ち上げを図るという方法論を編み出しました。

    アイデアを自分で考えるより、世の中にすでにあるアイデアを成長加速させることにコミットすることに徹したほうが、その会社では成果が出ると考えたからです。

     

    8つのテーマも少し絞り、私たちが所有するスタートアップデータベースに基づいて連携できそうな会社を抽出。協業シナリオもしっかり磨いてから持ち込むというプロセスをまわしました。結果、協業プロジェクトがスピーディーに立ち上がりました。

     

    これは、その大手企業のこれまでの経緯や社風、何が苦手で何が得意かをしっかり理解した上で最適解を導き出すというBASE Qらしさが表れた事例だと思います。


     

    3つのポイント

     

     

    イントレプレナーの3大要素「マインド」「スキル」「ネットワーク」をアップデートする

     

    瀧島:最適解を導き出すためには、学びも必要だと思います。Qスクールや、Qラウンジという場を運営されていると思いますが、場だけですと、単に知識を受け取るだけで学びにつながらないのではないでしょうか。

     

    光村:スクールだからといって、単に知識(スキル)を授けているわけではありません。その大前提としてマインドがないと学びようがありませんので、マインドの覚醒を促し、刺激をしていくことが必要です。この時、ネットワークが重要になってきます。個人や1社でできることが極めて限られる場合に、ネットワークがこれを担保してくれます。これらを踏まえ、私たちはイントレプレナーの3要素を「マインド」「ネットワーク」「スキル」と定義しています。

     

    Qスクールでマインド覚醒と知識を得て、Qラウンジでネットワークに触れながらいろんな人と会話をする。BASE Qは、マインド、スキル、ネットワークを総合的にアップデートしていくための1つのエコシステムと考えています。

     

    本質的ではない方法論に終止符を!

     

    瀧島:最後に、新規事業創出に取り組む皆様へメッセージをお願いします。

     

    光村:本質的ではない方法論を用いたり、やったこと自体に満足したりするのは、終わりにしていきたいと考えています。

     

    これまでご経験されてきた方は、失敗・経験から学び、挑戦し続けることを恐れてはいけないですし、これから始められる方は、過去の実績事例から学んだ上で挑戦していただきたいです。過去事例から学ぶことをアドバンテージとして捉えていただきたいです。

     

    企業の皆様の個別の課題に寄り添い、アイデア、人材、仕組みに対して全面的にアップデートを図るために伴走することで、新規事業・イノベーション創出に貢献できればと思います。

     

    (光村 圭一郎氏 プロフィール)

    ・三井不動産株式会社 BASE Q 運営責任者

    講談社を経て、2007年、三井不動産入社。2012年より新規事業担当。2018年、東京ミッドタウン日比谷に「BASE Q」を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。

    URL:https://www.baseq.jp/