NEDO SUMMIT

NEDOドリームピッチ@NEDOサミット(2026年6月15日)

2026年6月15日、NEDO SUMMITが都内で開催された。国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が注目する、最先端・未開拓な研究開発領域(フロンティア領域)を紹介し、産官学・投資家などと革新的アイデアについて議論を深める場だ。パネルセッションのひとつである「NEDOドリームピッチ」では、ディープテック分野での人材発掘・起業家育成事業「NEP」で採択されているスタートアップ4社がピッチを実施。座席を急遽追加で用意するほど多くの来場者に対し、産学の研究畑出身の経営者たちが自社のチャレンジや将来像を熱弁した。

(株)UBeing代表取締役/医師 福島大喜氏
美味しい減塩をウマイナと実現させる

減塩食品、減塩調味料、減塩弁当…。工夫を凝らした多くの製品が世にある一方、食生活を毎日コントロールしなければならない患者さんの『しっかりと味わいたい』との願いは切実なもの。「減塩食だけでない、違う選択肢が必要では」。医師として患者さんやご家族と対峙してきた福島氏が取り組むのは、電気刺激による味覚の増強という新たな選択肢の確立だ。
名古屋大学発スタートアップとしてNEDOの支援を受けながら開発した非医療機器のウェアラブルデバイス「umaiNa(ウマイナ)」は、皮膚から電気刺激を与えることで舌がマイナスに荷電し、プラスのナトリウムを引き寄せて味を増強する仕組み。例えば味噌汁では塩味と旨味が1.4倍に感じられたという。2026年度からは医療機関や介護施設で利用が開始となり、脳卒中患者での塩味増強を世界で初めて確認、論文化した。
ピッチの質問タイムに、競合する研究との比較を問われた福島氏。「ウマイナは食べる瞬間だけでなく、噛んでいるとき・飲み込むときと、最後まで味覚を感じられる」と優位性を強調した。使用事例の拡大、デバイスの量産、IoT化、宇宙での利用など取り組みたいチャレンジは山積みだ。
万博に出展した際に世界でも減塩が課題だと知った。福島氏は会場に向けて「患者さんだけでなく、社会に価値を出せる。日本から世界に、予防領域にも踏み込んでいきたい」と意気込みを語った。

腸note(株)代表取締役社長 金川典正氏
腸音から健康食品の「実感」を可視化する

「健康食品って『本当に効くのか?』と思うことってありますよね」。この言葉に会場の多くが深く頷いた。法律上、企業は効果を直接謳えず宣伝文句に頼るしかない。消費者も効果が目に見えなければ長続きしない。腸noteはサントリーの社内ベンチャーのような位置づけ。金川氏はもともと同社の健康飲料の研究者で、効果を顧客に伝える苦労に直面してきた。「効果を可視化することがカギになる」。そんな課題意識の先に、腸の活動状態の可視化技術を見出した。
健康寿命に関わる腸に関する健康食品は非常に多いが、腸の状態を簡単に可視化する方法は乏しい。同社はスマートフォンを聴診器のように直接お腹に当て、腸の音(蠕動音)を計測・記録して腸活に生かせるアプリを開発した。簡便さにより、4週間継続するプログラムでは多くの人が挫折せず腸活を習慣化できた。「便秘の人は自分の腸は止まっていると考えがちだが、音を聞くと『私の腸はこんなに頑張っているんだ』と知ることができる。それが行動変容に繋がる」(金川氏)。アプリは45万ダウンロード、製菓大手との連携も実現している。
同社はNEPにおける企業カーブアウト1号案件だ。導入企業側の課題意識も持ち合わせる金川氏は、腸活関連の商材をもつ企業との連携や、共同研究に取り組むパートナーを探している。「腸活に関心のある生活者と企業を繋ぐハブになり、データに基づいたヘルスケアを実現する世界を作りたい」。その想いが、研究者・経営者としての挑戦の原動力だ。

(株)ヴィジライズ 代表取締役社長 阿部高志氏
覚醒度の「将来予測」で誰もが活躍できる社会へ

目は口ほどに物を言う。あなたの瞼(まぶた)の動きから、とある未来を見通せるほどに。ヴィジライズは、数十分~数時間後という近い将来の「覚醒度」の予測技術の社会実装に挑む、筑波大学発スタートアップだ。カメラで瞼の位置情報を精緻に抽出して反応速度を推定。運動や睡眠を計測するウェアラブル機器から得るデータと掛け合わせて、将来の覚醒度を導き出す。将来の覚醒度とは、裏返せば「将来の眠気」。事前に対処できれば自動車事故の防止に貢献できる。まず瞼による反応速度推定技術を開発中だ。
NEPの大きなテーマの1つが大学シーズのビジネス化。睡眠科学の研究者である阿部氏が率いるヴィジライズの技術は、少しの眠気でもはっきりと検知できるという。さらに「他社は1~2分先の検知だが、我々は長期の将来予測ができ、眠くなる前に手が打てる」と自信を見せる。自動車の車内に赤外線カメラやエッジデバイスを装備し、運転者の負担なくリアルタイムに測定できることも実装面での強みだ。
運行管理システム事業者や自動車メーカーに、APIやSDK(Software Development Kit/ソフトウェア開発を効率化するためのツール)を提供するビジネスモデルを描く。トラックや高速バス事業者との実証実験を進めており、ドライバーモニタリングシステムの基本技術のAPIは既に大手電子機器メーカーが導入済み。ピッチ会場からは「鉄道の運航管理システムや保険会社への提供など、他用途での発展可能性もあるのでは」と期待の声が挙がった。阿部氏は「運転だけでなく様々な領域で展開していきたい」と応じた。

(株)IZANA 代表取締役 大前緩奈氏
無人機のための「次世代羅針盤」

地図アプリを開くとGPSがあなたの現在位置を示し、地球の磁場を感知する磁気センサが向いている方角を示す。しかしGPSが届かない場所、例えば海底ならどうだろう?そこで名古屋大学発スタートアップのIZANAが提案するのが「超高感度磁気センサ」』。クジラや渡り鳥が目印無しに正確に旅をするが如く、地磁気の分布情報を精緻に受信して現在地までわかる。例えば海底ケーブルを保守するドローンに搭載すれば、正確に仕事を遂行できる。大前氏は「製造業や防衛産業から引き合いがある」と話す。
スマホの磁気センサの感度は0.15μT(マイクロテスラ)。同社が手掛ける超高感度センサはその1.5万倍の0.00001μTを誇る。「Magneto-Impedanceセンサ原理」という、前身となった研究室の発明が秘訣だ。そして機器は手のひらに乗るほどの大きさで、モーターが発するノイズを抑える機能や、乾電池で稼働する省電力も特徴だ。
これらの特徴が集まることで価値となるのが、モーターの力で人手が届かないところまで移動する、ドローン=無人機への搭載だ。大前氏は「船や飛行機ではなく、小さなドローンに適しているユニークさがある。地味な技術だが色々なところに使える」と語る。ピッチに出席したある大企業の参加者も「弊社の事業との連携可能性がある」と話した。ドローンにとって不可欠な羅針盤を創る挑戦が、広がりつつある。

パネルディスカッション「NEP事業者の取り組みから学んで、次に続け」

前述の通り、NEPはディープテック分野での人材発掘・起業家育成を目的にする、プレシードステージの支援プログラムだ。ピッチ登壇した4社はそれぞれの問題意識・バックグラウンド・個人的な事情の中で「起業」という挑戦に踏み出し、NEPの門を叩いた。当時や今の想いは、これから起業を志す挑戦者の参考になるはず。そこでNEDOスタートアップ支援部 人材支援・オープンイノベーション伴走チーム/キャラバンチームの馬場大輔チーム長のモデレートのもと、ピッチを終えた4社のトップが起業やNEDOの支援体制をテーマにパネルディスカッションを展開した。4氏からは起業のモチベーションや悩みや価値観まで、自身の想いを会場に共有した。

「NEPが『迷走する自由』をくれた」

最初のテーマを「NEPが起業に与えた影響」』としてパネルがスタートした。登壇者からは「NEPがなければプロトタイプを作れなかった」「起業していなかったかもしれない」との声が続いた。加えてIZANAの大前緩奈氏は「NEPが『迷走する自由』をくれた。開拓コース、躍進500コース、躍進3000コースとステップアップし、やりたいことを探しながら進めた」と感謝を述べた。腸noteの金川典正氏は「起業するかどうか悩み続けても答えが出なかったが、その中でNEP採択が『起業に向けてお尻を叩く瞬間』になった」と話す。ヴィジライズの阿部高志氏は「大手電子機器メーカーから声がかかったことに加えて、NEPへの採択が決定打になった」と語る。また大学発のスタートアップを背景にした議論では、UBeingの福島大喜氏が「ディープテックでは起業前支援も近年手厚くなっており、法人化のタイミングも重要だった」と振り返る声もあった。
登壇4社のトップからは起業時の想いや悩みなど赤裸々な話も。福島氏は2度起業した支援者から「ファーストペンギンは偉大だ」と聞き、「誰も取り組んでいないこと。チャレンジしてみるか」と起業に踏み切る。当時を振り返り「勢いが大事だ」(福島氏)と語った。金川氏は「過去の自分に『何でこんないばらの道を選ぶのか』と言いたい」と話すと、会場から笑いが。しかし「起業を経験したからこそ視野が広がり、それを生かせることが増えた。『つらいけど楽しいよ』とも伝えたい」と笑顔で話した。阿部氏は研究者らしく「技術を信じ続けることが大事。社会実装への信念を持ち続けるべき」と話す。大前氏は「起業に対して後ろ向きの姿勢でもいい。(やりたいことを実現するために)結局は『起業しないと進まない瞬間』がやってくる」と振り返った。

「成長段階ごとにNEP支援を活用」

支援内容についての話題では「補助金はありがたいが、税金でもあるため有効に使うべき。必要な金額感次第ではNEDO以外の選択肢も取っている」と福島氏。阿部氏からは「APIの実現にはめどがついたが、ドライバーモニタリグへの実装は難易度が高い。引き続き支援が必要であり、躍進3000コースを目指す」、大前氏からは「小ロット販売→計測業務→システム化とステップアップする。補助金を成長段階ごとに活用したい」などと、フェーズに応じたNEDO支援コースの活用を志す声も挙がった。金川氏はピッチについて触れ「話したことを実現するのはハードではあるが、仲間づくりも含めて楽しみながら取り組んでいけばいい」と話した。
そして最後の話題は人生観。福島氏は「医師としての課題感からスタートした、健康とおいしさの両立を実現したい」。金川氏は「作ったアプリでヘルスケアを変えていきたい」。阿部氏は「睡眠不足による経済損失は大きく、課題解決に貢献したい」。最後は大前氏が「妊娠中にNEP申請書を書いたほどの覚悟でやっている。母としての働き方とスタートアップ経営を両立したい」と語り、各氏の強い想いを会場参加者と共有して、パネルディスカッションを終えた。

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