NEDOピッチ

【イベントレポート】第64回NEDOピッチ 課題先進国が示す、労働人口減少への「解」―Physical AIの社会実装が創る、次世代産業モデルー(2026年9月1日)

2026年9月1日、第64回NEDOピッチが開催された。テーマは『課題先進国が示す、労働人口減少への「解」―Physical AIの社会実装が創る、次世代産業モデル―』。国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が採択する、フィジカル領域に長けたディープテック・スタートアップの5社が登壇。労働供給力の減少に対し、テクノロジーによって日本の産業競争力を強化し、そして世界を変える。こうした志を抱く経営者たちが会場に自社の挑戦を紹介。ピッチ後のパネルディスカッションではファーストライトキャピタル代表取締役の岩澤 脩氏を交えて大企業連携の勘所を赤裸々に語り合った。さらに参加した事業会社などとのラウンドテーブル形式の交流会も実施、多くの出席者が時間の許す限り対話を深め、熱気を帯びたひと時となった。

(株)トコシエ 代表取締役 渡辺 龍徳 氏
AIが自律的ものづくりをする世界をつくる

完成品に限りなく近い立体的な設計図、それが3D CADだ。製造業では無くてはならないツールだが、考慮すべきポイントが多い職人技の世界でもある。材料の許容強度、安全性、作成物の使用環境、金型、コスト──。これらを設計者の意図や熟練のノウハウによってクリアする。こうした暗黙知を初心者が扱ったり、他の作成者が再現したりすることは困難であり、すなわち職人が現場を去ると失われるノウハウが確実に存在する。
「設計意図を構造的に保持する技術で、AIが人間と同じように設計できる」。トコシエの渡辺氏が紹介するのがチャットベースの3D CAD「Ignite0」だ。言葉や画像を入力すれば数秒で3Dモデルを生成し、編集も簡単。AIは前述したポイントも考慮した設計をする。設計の意図が履歴として残るため、他者が再現したり改善したりすることも可能だ。
既に20か国以上600以上のユーザーが採用。その魅力は設計にとどまらず、データを既存のCADソフトと共有し合える拡張性にもある。また企画・製造などのプロセスごとにある図面検証会議を1回で完結し、細かな設計変更もその場でできる。他のCADでの設計が基準通りに実施されているかAIがレビューすることも可能だ。
渡辺代表は「まず産業ロボティクス、その先はCADを使う全ての業界にポテンシャルがある」と語り、壮大でありながらも現実的な展望を描いている。

Nature Architects(株) 代表取締役CEO 須藤 海 氏
Generative Engineeringによる人手不足時代の製造業変革

「労働人口の減少が、製品を生み出すチャンスを奪う」。Nature Architectsの須藤氏が憂えているのは人が減り、試せる設計案が減り、新製品が減り、市場を失うことだ。製品開発は一度で正解を出せない。設計案を作っては試し、不足や矛盾を見つける作業の繰り返しだ。日本の製造業の強みは永らく、設計変更のたびに工程・部門・企業をまたいで遂行してきた「すり合わせ力」だった。その原動力である人材が減れば日本の強みは機能しなくなる。AIによって設計案が増えても「すりあわせは残り、ボトルネックになる。だからこれを自動化する」(須藤氏)。
同社は独自の開発基盤「Generative Engineering」を製造業に提供する。デジタルツインを作成し、様々な形状や構造や材料の候補から設計案を自動生成し、衝突・剛性など物理的な検証を再現できるシミュレーションモデルも自動生成する。さらには問題を見つけ、要求を満たすためのネクストアクションへ向けたフィードバックを示す。すなわち、正解が見つかるまでの反復を自動化する。
既に複数の自動車メーカーから重工業まで幅広い大手製造業が採用。須藤CEOは「いつか使われる技術ではなく、既に実装と検証を重ねている」と自信を示す。人手不足対策は守りの省人化になりがちだ。彼らの挑戦は日本産業の活力を維持加速するため、ますます熱を帯びていく。

(株)APTO 取締役COO 狩野 洋一 氏
データ × 精度に特化したAIロボティクス事業

AIの精度はデータが重要であることは誰もが知るところ。しかしフィジカルAIにおいてはその重要な要求を満たすことが難しい。認識世界を自然言語で理解して現実世界へアクションを起こすには、高品質かつ大量のフィジカル用のロボティクスデータが必要だ。ただし画像や言語データのように既にあるものではなく、一から作り上げる必要がある。AIロボティクスでの世界での競争を勝ち抜くには避けては通れない課題だ。
APTOは画像、動画、音声、テキスト、3DLiDAR、ロボティクスと様々なデータを提供する企業だ。狩野氏は「私たちは精度に妥協することなくデータに取り組んできた」と自負する。都内2か所にある研究施設には、高品質なデータをつくるためのロボットなどがずらりと並び、物をつかむ動作をデータ化したり、映像から動きを捉えたり。様々な方法を使って生のデータを生み出している。さらにデータの品質の検証、高品質なデータをシミュレーション空間に入れて拡張させるなど、必要なプロセスを一気通貫で提供できる。
国内IT大手に加えて、電機大手、精密機械大手のAIデータの知恵袋にもなってきた。データをつくったり顧客のもつデータを加工したりと、基盤モデルの学習に貢献する。「必要なデータが入手できる環境を整えて、誰もが挑戦できる世界にしたい」とは彼らの経営ビジョン。専門的なデータの価値がますます高まるなか、厚い期待が寄せられている。

Zen Intelligence(株) CEO 野﨑 大幹 氏
Physical AIで、基幹産業を変革する

労働力の減少に直面しながらも、2030年より先も伸びる見込みの国内市場がある。それは建設市場だ。しかし人手不足で新築着工できず、特に大工、職人、現場監督がいないという「あと数年もすれば異次元の人手不足に直面する」(野﨑氏)苦境に置かれてもいる。しかしこの領域にはまだAIによる効率化の波が起きておらず、テクノロジーの進歩の恩恵を得られる可能性は大いにある。
「製造業ではデータを集め可視化してきたものが、建設業ではまだデータを取ることすらされていない。ここから取り組んでいる」と野﨑氏。同社の主力サービスである、施工管理の遠隔化を実現する「zenshot」は360°カメラを現場で持ち歩くだけでデジタルツインの3Dモデルを作り出し、現場監督が遠隔で状況を確認できる。
ここ3~4年、zenshotはこれまでどこにもなかった建設現場のデータを収集してきた。これが現場の動画や画像を入力できるVision-Language Modelの開発を可能にし「zenshot AI」を生んだ。工程の進捗確認、施工品質に関するアドバイスや安全リスクの指摘など、現場監督の施工管理業務をAIが自動で出力する。経験の少ない監督や派遣の監督でも、品質を下げずに施工管理を実現できる。「ベテランに頼ることなく、現場管理の自動化で人手不足の業界に貢献する」。異次元の人手不足を前に、確かな処方箋が生まれている。

(株)ROBOTS 代表取締役CEO 河内 洸貴 氏
現場で働くほど賢くなる警備ロボットサービス

有効求人倍率6倍以上。「日本で最も人手不足が深刻な業界の一つが警備だ」。そう語る河内氏は「直接的に人手不足を解消できるのが警備ロボットだ」とニーズを確信。ロボットは警備現場に入り始めているものの、施錠確認のような作業ができなかったり、段差を乗り越えられなかったりと、活用は限定的。単一メーカーのロボット単体では、現場の業務を担いきれないのが実情だ。
ROBOTSが提案するのが、異なる既製ロボットを統合的かつ自律的に動かすサービス。1つは独自のロボット統合制御基盤。各種センサと自律制御を担うAIを搭載し、既製の多種多様なロボットを警備に活用できるように統合制御する。もう1つは防災センターの警備員が使う警備OSだ。警備計画に沿って、警備業務をロボットに指示でき、リアルタイム映像や異常検知のアラート、稼働状況をひと目で確認できる。ITの知識が豊富でなくとも扱うことができ、また導入にあたっての現地調査を簡潔に行えるため多様な現場に対応できるという。
そのコア技術と導入のしやすさにより、複数のトライアルが始まり、本採用も見えてきた。「より早くロボットを現場に届け、まずは現場の課題を解決しながら、そこで得られるデータでコア技術を磨き込んでいきたい」。警備にとどまらず、労働人口が減少する日本において幅広い現場への展開を目指し、人とロボットの協働による持続可能な現場を創っていく考えだ。

パネルディスカッション「スタートアップと大企業 協業成功のヒント」

ピッチに登壇した各社は、世界で真っ先に労働人口減少社会に突入する日本において、次世代産業モデルの確立へ貢献しようとしている。それぞれの事業レイヤーにおけるリーディングカンパニーとの連携も始めている彼らだからこそ、大企業との連携における勘所を知っているはず。そこで金融・事業再生・スタートアップ・海外事業と多様な経験を持つ投資家である、ファーストライトキャピタル代表取締役の岩澤 脩氏をファシリテーターに迎え、スタートアップと大企業が協業で成果を生んでいくためのポイントを議論した。

■POCが上手くいって終わり、ではいけない

最初にスタートアップと事業会社との協業の意義を議論。まず試すことを優先するのか、それとも長期的な視点で取り組むべきか。Nature Architectsの須藤氏は「良い結果が出て良かったね、で終わらないように、最初の段階で『長期的な方向で大きく変えていきたい』と目線をあわせていかないといけない」と語った。
これに続く話題では、協業では短期的な成果よりも将来の事業価値を重視すべきか、との問いが。トコシエの渡辺氏は「(POCで短期的に)売り上げが立つのは嬉しいが、スタートアップとしては仮設の検証に繋がっているかどうか見ていきたい」との考えを共有。自身が大企業に所属していたROBOTSの河内氏は「中長期と短期はどちらも重要。大企業では3年ごとに異動がある場合も多い。短期のPoC実績などで社内外のプレゼンスを高めつつ、商用導入に必要なマイルストンを達成する中で成果を出し、引き継ぐ価値のあるプロジェクトにする必要がある」と語った。

■個別カスタマイズは是々非々で

岩澤氏が「スタートアップと大企業との協業連携で大きな論点になる」と話題にしたのが事業会社向けのカスタマイズの是非。個別化ニーズはヒトもカネも限られるスタートアップにとって有難くも悩みのタネでもある。Zen Intelligenceの野﨑氏は「私たちのプロダクトに(カスタマイズで得られたノウハウを)還元できるのなら積極的にやるし、そうでないならお断りすることもある」。一方で「カスタマイズをしてはいけないのではなく、そのプロダクトの性質やビジネスモデル次第」とも。自動車メーカーと連携するNature Architectsの須藤氏も「ビジネスモデル・規模・単価次第。製造業では巨大なプレーヤーとがっぷり四つでやっていくことが重要。そこで培った知見やノウハウをいかに汎用的なソリューションとして使ってもらうか」と述べた。

■柔軟性をもって組むことで、ミスマッチをなくす

次のテーマは、経営層の関与を重視すべきかどうか。岩澤氏は「現場の評価と経営者、それから予算をもつ部門の評価は別だったりする。そのなかでどうアクションを起こしているのか」と質問を投げかけた。Zen Intelligenceの野﨑氏は「導入時は『いいね』と言ってくれる現場の人たちと一緒に成果を出していくが、経営者のコミットメントがないと全ての現場には入っていかない」と語った。APTOの狩野氏は別の観点から「経営層だけから進めていった場合、現場で『本当はいらない』となると悲しいことになる。現場にエバンジェリストを作っていくことも大切だ」。両人とも経営層の関与が重要との視点ではありつつ、やはり現場の支持も不可欠だとの考えで一致した。
こうした議論を受けて岩澤氏は「冷静な視点のもと、どのくらいの時間軸でどういう成果を出していくのかが重要になる」と、協業を始める際の建付けの重要性を指摘。そのうえで「スタートアップによってアプローチ方法は異なる。大企業側は柔軟性をもった建付けで取り組まないとミスマッチが起こり、フィジカルAIというトレンドがなくなってしまう危機感も感じた」と総括した。

トップに戻る

CONTACT お問い合わせ

ご質問・ご要望ございましたらお気軽にお問い合わせください。