建設技術やノウハウを駆使して、お客様の抱えるさまざまな問題の解決にきめ細かに対応し、末永く愛される、「より生活者志向」企業の実現を目指す、東急建設株式会社 価値創造推進室イノベーション推進部の関本 良平氏に話を伺った。 関本 良平氏 戦略事業の成長 ― 長期経営計画 ― ─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。 関本:新規事業を創出するにあたって様々なアプローチを活用しており、オープンイノベーションは複数あるアプローチ方法の一つとして活用しています。 ─―オープンイノベーションも手法の1つとして考えているようですが、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。 関本:弊社は2030年のグループ企業ビジョン達成に向け、2021年5月に長期経営計画を策定しました。その中にある5つの重点戦略のうちの一つ「戦略事業の成長」のため、2021年4月に価値創造推進室が立ち上げられました。長期経営計画にも記載の通り、2030年までに戦略事業を全社の収益構成で25%まで引き上げることを目的としています。 (現在はコア事業(国内建設事業)への依存度が高い状況ですね。) オープンイノベーションについても、長期経営計画内で、外部の革新的技術やビジネスモデルと当社の保有資産や技術との融合によって、コア事業の生産性向上や競争優位性を築くことや、新たな価値を創造(新規事業)することを目的として、積極的に取組むこととなりました。 ─―長期での具体的な数値目標を設定しているのですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。 関本:既にスタートアップ数社と協業に向けての取組みを開始しています。オープンイノベーションの一旦を担うCVC活動を行っていなければ、スタートアップとの繋がりが今ほどは持てていなかったと思います。その点には利点を大いに感じていますね。 本音で語り合う事業化への目的 ─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 関本:こちらでは、社内公募によってアイディアを募り、顧客は誰なのか、競争力、差別化、新規性があるのかなどを項目分けして、次フェーズに進むためのステージゲートを設けています。 課題としては、発案者が新規事業に取組みやすい環境づくり、特に人事面含めた制度面、現業からはなれ、新規事業の組成に専念できるような状況がまだまだ社内で出来上がっていないことです。 ─―続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容について教えてください。 関本:二人組合ファンドを運営するグローバルブレイン株式会社による有望企業の発掘やデューディリジェンス、多面的な経営支援を活用し、各案件に適した連携相手を探っています。 ─―共同運営社のノウハウを活用されているのですね。続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 関本:弊社側の仮説と、スタートアップ企業側の仮説をぶつけ合いながら情報交換を行っています。 課題としては、話を詰めていく中でスタートアップの実現したいことと、弊社が実現したいことがマッチしていないケースがあることですね。 こうした課題解決のために、本格的に協業を開始する前に徹底的に実現したいことを擦り合わせるよう心掛けています。また、実現したいことのすり合わせの結果、相違があることが決定的となった際には、協業しない判断をしています。 ─―協業前に実現への共通認識を持つことは大切ですよね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 関本:仮説の実証がメインになります。内容によっては、ローンチして、顧客が本当につくかの検証を行っています。 問題としては、PoCの目的を正確に定めずに開始してしまった結果、評価が困難となったケースがありました。 こうした課題解決のために、目的やゴールを明確にすること。そしてネクストアクションの明確化などを行い、目的・ゴールを明確化してからPoC、研究等を開始するようにしています。 ─―評価まで考えて協業を開始することがポイントなのですね。続いて、事業化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 関本:各フェーズに於けるステージゲートのゲート審査を通過した案件に関して、ローンチして本当に顧客が付くかなどを確認し、ある程度顧客が付いた場合は、経営会議に諮ります。 課題としては、事業化の定義を明確にすることかと思います。 こうした課題解決のために、安定的に収益が得られることを事業化の条件として制度化し、運用していくことが大切だと考えています。 ─―事業化の条件や制度を設定していくことがポイントなのですね。続いて、スケール化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 ※スケール化⇒事業化した新製品・サービスを産業化する段階。差別化にあたって「ダーウィンの海」という障壁がある。 関本:ポイントとして、マーケティング戦略や、顧客体験の部分で、当初の想定と異なる部分が発生した際のスピード感のある対応だと思っています。 こうした課題解決のために、マーケティング戦略の練り直しや、UXの見直し、協業相手とともに検討しなおしてもらうこともあります。 自社プラットフォームで誰もがオープンイノベーションという選択肢をもつ ─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。 関本:1つめにTAP(東急アライアンスプラットフォーム)という東急グループのプラットフォームがあります。フレキシブルに各事業の課題やニーズの発信が可能な環境を整備し、これまでの参画事業者を中心とした取組みに留まらず、東急グループの誰もがオープンイノベーションという選択肢を当たり前に持ち、実行可能な体制を整えています。 東急株式会社様が運営され、2015 年度から通算で、107件のテストマーケティングや協業、うち37件の事業化や本格導入、うち7件の業務・資本提携を実現しています。(2023年11月末現在) 2つめは、2022年4月1日より産学連携による共同研究等を推進するため、当社と九州大学で組織対応型連携契約を締結しました。九州大学が総合建設会社と包括的な連携契約を締結するのは東急建設が初となっています。 組織対応型連携とは、企業の研究開発業務の強化と大学の学術研究活動の活性化を図ることを目的としており、九州大学では、学術研究・産学官連携本部がテーマのマッチング、連携マネジメント、進捗管理等をサポートし、研究担当者の負担を軽減するため個別事業の推進を支援する体制を整えています。 弊社側は、気候変動やそれらを含むSDGsなどの社会課題の解決に向け、「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」を3つの提供価値として長期経営計画の軸に据え、社会に対する価値提供と持続的な企業価値向上に取り組んでいます。 ─―素晴らしい取り組みをされていのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの長所を活かすための配慮などあれば教えてください。 関本:1つめは、当社側の実現したいこと、やりたいことをしっかりと協業相手に伝えること。 2つめは、スタートアップの実現したい未来と当社の未来を共有すること。 3つめは、スタートアップの限りあるリソースをきちんと把握し、同社の長所・スピード感を活かすようマネジメントすること。 だと思います。 ─―スタートアップとの目的のすり合わせやマネジメントまで行うことがポイントなのですね。最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。 関本:大企業向けの新規事業関連補助金の充実ですかね。特に実証実験費用などは様々な条件があり、主にスタートアップや中小企業向けの印象が多いため、大企業でも、新規事業の創出に伴う資金を、会社側から引っ張ってくるのは容易ではなく、事業部単位でチャレンジできる環境を国の支援によって後押しして頂くと嬉しいです。 取材対象プロフィール 東急建設株式会社 価値創造推進室関本 良平氏 担当の関本氏は2011年入社。九州支店での現場事務、本社総務部を経て、現在は価値創造推進室にて新規事業創出を担当。TAP(東急アライアンスプラットフォーム)の社内事務局等も兼任。関心事項としては、防災・減災、エンターテイメント、テクノロジーとなる。業務内容としては、ビジョン2030に従って第3の収益事業を創ることを目的に、新規事業における社内からアイディアを公募し、ボトムアップとなるインキュベーションの手伝いを行う。 インタビュー実施日:2022年12月23日
建設技術やノウハウを駆使して、お客様の抱えるさまざまな問題の解決にきめ細かに対応し、末永く愛される、「より生活者志向」企業の実現を目指す、東急建設株式会社 価値創造推進室イノベーション推進部の関本 良平氏に話を伺った。
関本 良平氏
戦略事業の成長 ― 長期経営計画 ―
─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。
関本:新規事業を創出するにあたって様々なアプローチを活用しており、オープンイノベーションは複数あるアプローチ方法の一つとして活用しています。
─―オープンイノベーションも手法の1つとして考えているようですが、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。
関本:弊社は2030年のグループ企業ビジョン達成に向け、2021年5月に長期経営計画を策定しました。その中にある5つの重点戦略のうちの一つ「戦略事業の成長」のため、2021年4月に価値創造推進室が立ち上げられました。長期経営計画にも記載の通り、2030年までに戦略事業を全社の収益構成で25%まで引き上げることを目的としています。
(現在はコア事業(国内建設事業)への依存度が高い状況ですね。)
オープンイノベーションについても、長期経営計画内で、外部の革新的技術やビジネスモデルと当社の保有資産や技術との融合によって、コア事業の生産性向上や競争優位性を築くことや、新たな価値を創造(新規事業)することを目的として、積極的に取組むこととなりました。
─―長期での具体的な数値目標を設定しているのですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。
関本:既にスタートアップ数社と協業に向けての取組みを開始しています。オープンイノベーションの一旦を担うCVC活動を行っていなければ、スタートアップとの繋がりが今ほどは持てていなかったと思います。その点には利点を大いに感じていますね。
本音で語り合う事業化への目的
─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
関本:こちらでは、社内公募によってアイディアを募り、顧客は誰なのか、競争力、差別化、新規性があるのかなどを項目分けして、次フェーズに進むためのステージゲートを設けています。
課題としては、発案者が新規事業に取組みやすい環境づくり、特に人事面含めた制度面、現業からはなれ、新規事業の組成に専念できるような状況がまだまだ社内で出来上がっていないことです。
─―続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容について教えてください。
関本:二人組合ファンドを運営するグローバルブレイン株式会社による有望企業の発掘やデューディリジェンス、多面的な経営支援を活用し、各案件に適した連携相手を探っています。
─―共同運営社のノウハウを活用されているのですね。続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
関本:弊社側の仮説と、スタートアップ企業側の仮説をぶつけ合いながら情報交換を行っています。
課題としては、話を詰めていく中でスタートアップの実現したいことと、弊社が実現したいことがマッチしていないケースがあることですね。
こうした課題解決のために、本格的に協業を開始する前に徹底的に実現したいことを擦り合わせるよう心掛けています。また、実現したいことのすり合わせの結果、相違があることが決定的となった際には、協業しない判断をしています。
─―協業前に実現への共通認識を持つことは大切ですよね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
関本:仮説の実証がメインになります。内容によっては、ローンチして、顧客が本当につくかの検証を行っています。
問題としては、PoCの目的を正確に定めずに開始してしまった結果、評価が困難となったケースがありました。
こうした課題解決のために、目的やゴールを明確にすること。そしてネクストアクションの明確化などを行い、目的・ゴールを明確化してからPoC、研究等を開始するようにしています。
─―評価まで考えて協業を開始することがポイントなのですね。続いて、事業化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
関本:各フェーズに於けるステージゲートのゲート審査を通過した案件に関して、ローンチして本当に顧客が付くかなどを確認し、ある程度顧客が付いた場合は、経営会議に諮ります。
課題としては、事業化の定義を明確にすることかと思います。
こうした課題解決のために、安定的に収益が得られることを事業化の条件として制度化し、運用していくことが大切だと考えています。
─―事業化の条件や制度を設定していくことがポイントなのですね。続いて、スケール化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
※スケール化⇒事業化した新製品・サービスを産業化する段階。差別化にあたって「ダーウィンの海」という障壁がある。
関本:ポイントとして、マーケティング戦略や、顧客体験の部分で、当初の想定と異なる部分が発生した際のスピード感のある対応だと思っています。
こうした課題解決のために、マーケティング戦略の練り直しや、UXの見直し、協業相手とともに検討しなおしてもらうこともあります。
自社プラットフォームで誰もがオープンイノベーションという選択肢をもつ
─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。
関本:1つめにTAP(東急アライアンスプラットフォーム)という東急グループのプラットフォームがあります。フレキシブルに各事業の課題やニーズの発信が可能な環境を整備し、これまでの参画事業者を中心とした取組みに留まらず、東急グループの誰もがオープンイノベーションという選択肢を当たり前に持ち、実行可能な体制を整えています。
東急株式会社様が運営され、2015 年度から通算で、107件のテストマーケティングや協業、うち37件の事業化や本格導入、うち7件の業務・資本提携を実現しています。(2023年11月末現在)
2つめは、2022年4月1日より産学連携による共同研究等を推進するため、当社と九州大学で組織対応型連携契約を締結しました。九州大学が総合建設会社と包括的な連携契約を締結するのは東急建設が初となっています。
組織対応型連携とは、企業の研究開発業務の強化と大学の学術研究活動の活性化を図ることを目的としており、九州大学では、学術研究・産学官連携本部がテーマのマッチング、連携マネジメント、進捗管理等をサポートし、研究担当者の負担を軽減するため個別事業の推進を支援する体制を整えています。
弊社側は、気候変動やそれらを含むSDGsなどの社会課題の解決に向け、「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」を3つの提供価値として長期経営計画の軸に据え、社会に対する価値提供と持続的な企業価値向上に取り組んでいます。
─―素晴らしい取り組みをされていのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの長所を活かすための配慮などあれば教えてください。
関本:1つめは、当社側の実現したいこと、やりたいことをしっかりと協業相手に伝えること。
2つめは、スタートアップの実現したい未来と当社の未来を共有すること。
3つめは、スタートアップの限りあるリソースをきちんと把握し、同社の長所・スピード感を活かすようマネジメントすること。
だと思います。
─―スタートアップとの目的のすり合わせやマネジメントまで行うことがポイントなのですね。最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。
関本:大企業向けの新規事業関連補助金の充実ですかね。特に実証実験費用などは様々な条件があり、主にスタートアップや中小企業向けの印象が多いため、大企業でも、新規事業の創出に伴う資金を、会社側から引っ張ってくるのは容易ではなく、事業部単位でチャレンジできる環境を国の支援によって後押しして頂くと嬉しいです。
取材対象プロフィール
東急建設株式会社 価値創造推進室
関本 良平氏
担当の関本氏は2011年入社。九州支店での現場事務、本社総務部を経て、現在は価値創造推進室にて新規事業創出を担当。TAP(東急アライアンスプラットフォーム)の社内事務局等も兼任。関心事項としては、防災・減災、エンターテイメント、テクノロジーとなる。業務内容としては、ビジョン2030に従って第3の収益事業を創ることを目的に、新規事業における社内からアイディアを公募し、ボトムアップとなるインキュベーションの手伝いを行う。