地球環境との調和の中で、材料・物資の革新と創出を通して高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する三井化学株式会社 研究開発企画管理部・GLの岡崎 信也氏に話をうかがった。 岡崎 信也氏 他者との連携で開発のスピードアップを狙う ─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。 岡崎:オープンイノベーションを「新規事業創出のため」とすればかなり昔にさかのぼります。近年では、カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミーといった課題に対して、オープンイノベーションをより一層進める必要性を感じています。 ─―かなり昔から「新規事業創出」に取り組んでいたということですが、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。 岡崎:社会課題起点の「ソリューション型ビジネスモデルの構築」を長期の全社基本戦略として定め、この戦略に沿って、課題解決に繋がる先進技術や事業構想を備えたスタートアップ企業とのマッチングに取り組んでいます。現在の社会問題は広範囲にわたり、当社単独での解決は極めて困難と考えられ、弊社の新事業開発センターを中心に、スタートアップやアカデミア、他社との連携で開発のスピードアップを図っています。現状の足元では、いくつか形になりつつあるものもあります。 ─―すでにいくつか形になりつつあるものがあるのですね。ではもし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。 岡崎:次世代事業は生まれず、競合他社に対する競争力の低下が想定されますね。 専門領域の人材確保、多角的な意見交換 ─―続いて各ステージにおける具体的な取組についておうかがいできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 岡崎:具体的な取組として、研究開発部門においては新規テーマ提案会などを設け、コーポレートテーマに合致していると評価された場合には人員・予算が設定される取組を行っています。 課題としては、必要な人材が必ずしも十分でないケースがあることですね。また、どこまで市場が成長するか、どれくらい資金を投下すべきかといった見極めが難しいこともあります。そのほか、マーケティングが不十分となるケースがありますね。 ─―必要な人材の不足や、資金の見極めは中々難しいですね。では課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 岡崎:専門領域の人材の採用、いわゆるキャリア採用を積極的に行っています。多様な価値観・バックグラウンドを備えた人材と協働することで、広範な技術領域・事業領域における社外技術や潜在的な事業機会を把握・理解することが可能です。また、同業種異業種を問わず他の企業との意見交換などを踏まえた多角的な検討を行っており、今後もこれらの取組を継続したいと考えています。 ─―専門領域に絞った人材採用は良い取組ですね。続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 岡崎:具体的な取組としては、CVCの設立によるスタートアップの情報収集・マッチングの加速や、役員クラス同士での意見交換を行っています。また、Tech Finder、Mitsui Technology Showcase(通称"Mitsui Day")といったイベントの開催を通じて、担当者レベルでの人脈構築にも取り組んでいます。 課題としては、スタートアップはスピード感が圧倒的にはやく、当社側では社内承認などに時間を要してしまうケースもあることですね。 ─―スタートアップのスピード感とのずれは他社様からもうかがうことが多い課題です。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 岡崎:定型的な部分に関しては過去のフローを鑑みて、簡略化できる部分は簡略化しています。また、事前の話し合いなどをより密なものにするように努めております。今後もこの取組を継続したいと考えています。 ─―承認にかかる諸手続きの簡略化は他の企業様からもうかがいます。続いて情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 岡崎:スタートアップに関しては財務情報なども確認しています。課題としては、先ほど述べたように、スタートアップとのタイムスケールの違い、が最大の課題ですね。 こうした課題の解決のために、スタートアップ企業の判断・実行スピードに合わせて、リスクと目的の調和を図りつつスピーディに対応できる体制構築を進めています。CVC設立も一つの方策です。 ─―続いてPoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 岡崎:PoC・研究開発においては、研究者が自ら実施しています。課題としては、研究者の技術視点寄りとなるため、顧客あるいは社会課題の把握・検証が不十分になるケースがあることですね。 こうした課題の解決のために、提供価値に事業性があることを出来るだけ早い段階で検証しながらオープンイノベーションによる新事業開発を推進しています。 自社の人材をスタートアップに常駐させる ─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。 岡崎:人員の交流を行っています。弊社人材をスタートアップに数年間常駐させたり、スタートアップ人材を受け入れたりなどです。こうした取り組みを通してスピード感などの経験値を得ています。 ─―スタートアップに自社の人材を常駐させるのは画期的な取組ですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの長所を活かすための配慮などあれば教えてください。 岡崎:スタートアップの長所はそのスピード感ですので、これを損ねないように我々も行動する意識を持っています。また、新事業は市場の確度が低いので、生産体制の構築にも工夫が必要です。段階的な生産の拡張を前提とした体制の整備も考慮に入れています。 ─―最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。 岡崎:国内にさらに多くスタートアップが生まれ、成長できる体制・制度づくりを希望します。現状では、欧米に比べて絶対数が少なく、オープンイノベーションの機会が限られていると感じています。また、日本人の文化的な側面かもしれませんが、一度失敗すると再チャレンジするのが難しい社会的風土もあると聞いています。失敗しても再度チャレンジできる体制・制度の構築が重要だと思います。 取材対象プロフィール 三井化学株式会社 研究開発企画管理部・サスティナビリティグループ GL岡崎 信也氏 2000年九州大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。2001年三井化学入社。同社生産技術研究所にて様々な製品の新規プロセス開発、既存プロセス改良を担当。2013年より石化事業本部(現:ベーシック&グリーンマテリアルズ事業本部)にて海外大型プロジェクト案件を担当しつつ、技術ライセンスの営業にも従事。2017年生産技術研究所に復帰し、所長スタッフ、及び大阪工場内のケミカルプロセスグループリーダーを経て2021年4月より現職。カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーに資する研究開発テーマの推進、三井化学内の各研究所とアカデミア、スタートアップとの連携取りまとめ等を担っている。九州大学との包括連携にも従事。 インタビュー実施日:2022年12月27日
地球環境との調和の中で、材料・物資の革新と創出を通して高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する三井化学株式会社 研究開発企画管理部・GLの岡崎 信也氏に話をうかがった。
岡崎 信也氏
他者との連携で開発のスピードアップを狙う
─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。
岡崎:オープンイノベーションを「新規事業創出のため」とすればかなり昔にさかのぼります。近年では、カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミーといった課題に対して、オープンイノベーションをより一層進める必要性を感じています。
─―かなり昔から「新規事業創出」に取り組んでいたということですが、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。
岡崎:社会課題起点の「ソリューション型ビジネスモデルの構築」を長期の全社基本戦略として定め、この戦略に沿って、課題解決に繋がる先進技術や事業構想を備えたスタートアップ企業とのマッチングに取り組んでいます。現在の社会問題は広範囲にわたり、当社単独での解決は極めて困難と考えられ、弊社の新事業開発センターを中心に、スタートアップやアカデミア、他社との連携で開発のスピードアップを図っています。現状の足元では、いくつか形になりつつあるものもあります。
─―すでにいくつか形になりつつあるものがあるのですね。ではもし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。
岡崎:次世代事業は生まれず、競合他社に対する競争力の低下が想定されますね。
専門領域の人材確保、多角的な意見交換
─―続いて各ステージにおける具体的な取組についておうかがいできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
岡崎:具体的な取組として、研究開発部門においては新規テーマ提案会などを設け、コーポレートテーマに合致していると評価された場合には人員・予算が設定される取組を行っています。
課題としては、必要な人材が必ずしも十分でないケースがあることですね。また、どこまで市場が成長するか、どれくらい資金を投下すべきかといった見極めが難しいこともあります。そのほか、マーケティングが不十分となるケースがありますね。
─―必要な人材の不足や、資金の見極めは中々難しいですね。では課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
岡崎:専門領域の人材の採用、いわゆるキャリア採用を積極的に行っています。多様な価値観・バックグラウンドを備えた人材と協働することで、広範な技術領域・事業領域における社外技術や潜在的な事業機会を把握・理解することが可能です。また、同業種異業種を問わず他の企業との意見交換などを踏まえた多角的な検討を行っており、今後もこれらの取組を継続したいと考えています。
─―専門領域に絞った人材採用は良い取組ですね。続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
岡崎:具体的な取組としては、CVCの設立によるスタートアップの情報収集・マッチングの加速や、役員クラス同士での意見交換を行っています。また、Tech Finder、Mitsui Technology Showcase(通称"Mitsui Day")といったイベントの開催を通じて、担当者レベルでの人脈構築にも取り組んでいます。
課題としては、スタートアップはスピード感が圧倒的にはやく、当社側では社内承認などに時間を要してしまうケースもあることですね。
─―スタートアップのスピード感とのずれは他社様からもうかがうことが多い課題です。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
岡崎:定型的な部分に関しては過去のフローを鑑みて、簡略化できる部分は簡略化しています。また、事前の話し合いなどをより密なものにするように努めております。今後もこの取組を継続したいと考えています。
─―承認にかかる諸手続きの簡略化は他の企業様からもうかがいます。続いて情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
岡崎:スタートアップに関しては財務情報なども確認しています。課題としては、先ほど述べたように、スタートアップとのタイムスケールの違い、が最大の課題ですね。
こうした課題の解決のために、スタートアップ企業の判断・実行スピードに合わせて、リスクと目的の調和を図りつつスピーディに対応できる体制構築を進めています。CVC設立も一つの方策です。
─―続いてPoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
岡崎:PoC・研究開発においては、研究者が自ら実施しています。課題としては、研究者の技術視点寄りとなるため、顧客あるいは社会課題の把握・検証が不十分になるケースがあることですね。
こうした課題の解決のために、提供価値に事業性があることを出来るだけ早い段階で検証しながらオープンイノベーションによる新事業開発を推進しています。
自社の人材をスタートアップに常駐させる
─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。
岡崎:人員の交流を行っています。弊社人材をスタートアップに数年間常駐させたり、スタートアップ人材を受け入れたりなどです。こうした取り組みを通してスピード感などの経験値を得ています。
─―スタートアップに自社の人材を常駐させるのは画期的な取組ですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの長所を活かすための配慮などあれば教えてください。
岡崎:スタートアップの長所はそのスピード感ですので、これを損ねないように我々も行動する意識を持っています。また、新事業は市場の確度が低いので、生産体制の構築にも工夫が必要です。段階的な生産の拡張を前提とした体制の整備も考慮に入れています。
─―最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。
岡崎:国内にさらに多くスタートアップが生まれ、成長できる体制・制度づくりを希望します。現状では、欧米に比べて絶対数が少なく、オープンイノベーションの機会が限られていると感じています。また、日本人の文化的な側面かもしれませんが、一度失敗すると再チャレンジするのが難しい社会的風土もあると聞いています。失敗しても再度チャレンジできる体制・制度の構築が重要だと思います。
取材対象プロフィール
三井化学株式会社 研究開発企画管理部・サスティナビリティグループ GL
岡崎 信也氏
2000年九州大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。2001年三井化学入社。同社生産技術研究所にて様々な製品の新規プロセス開発、既存プロセス改良を担当。2013年より石化事業本部(現:ベーシック&グリーンマテリアルズ事業本部)にて海外大型プロジェクト案件を担当しつつ、技術ライセンスの営業にも従事。2017年生産技術研究所に復帰し、所長スタッフ、及び大阪工場内のケミカルプロセスグループリーダーを経て2021年4月より現職。カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーに資する研究開発テーマの推進、三井化学内の各研究所とアカデミア、スタートアップとの連携取りまとめ等を担っている。九州大学との包括連携にも従事。