鉄道・バスの運輸業を中核に、スーパーマーケットを含む流通業、住宅の分譲・賃貸や商業施設の運営・オフィスビル賃貸の事業を主とする不動産業、国内外に60店舗を出店するホテル業ならびに建物管理業などの関連分野に事業展開する35社(相鉄ホールディングス含む)から構成される相鉄グループの、相鉄ホールディングス株式会社 経営戦略室 課長 事業創造担当 鈴木 洋光氏に話を伺った。 鈴木 洋光氏 アクセラレータプログラムの実績 ─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。 鈴木:2017年に「街づくり」をテーマに株式会社相鉄アーバンクリエイツ、株式会社相鉄ビルマネジメントでオープンイノベーションの取り組みを始めたのが経緯ですが、その取り組みをグループ全体に広げていくことを目的として、相鉄ホールディングスがオープンイノベーションをリードしていく方針に変更しています。 これまでは、一部の事業会社の収益拡大が目的であり、グループ各社のリソース、人的資源などが効率よく活用できていないなどの課題がありましたが、2021年11月に相鉄ホールディングス株式会社の経営戦略室・事業創造担当が取り組みを継承したことで、相鉄グループ全体としてオープンイノベーションに取り組める体制が整備されました。 ─―グループ全体でオープンイノベーションに取り組む体制ができてから、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。 鈴木:オープンイノベーションの目的として一つ目にスタートアップとの協働促進を通じた事業会社を対象とする「事業基盤の整備/拡張」があります。そして二つ目はサステナビリティを軸とした「新たな事業の柱の確立」に向けた「新領域事業開発」です。 達成状況として、2021年度のアクセラレータプログラムの実績として、スタートアップからの提案件数101件、共創事業採択件数11件があります。 相鉄アクセラレータプログラム2021 ─―素晴らしい実績ですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。 鈴木:オープンイノベーションを行わず、自社単独で各種取組を進めた場合、相鉄グループのリソースや人的資源が効率よく活用できていないなど、事業推進に係るグループ基盤(プラットフォーム)の構築に繋がらなかったことが想定されますね。 「長期ビジョン”Vision2030”」に掲げられた「事業領域の拡大を通じた中長期の成長基盤増強」を進めるための一つの手法として、取り組んでいるアクセラレータプログラムでは、自分たちでは考えもつかなかったソリューションに触れる機会が増えたほか、スタートアップとの新しいネットワークが構築されました。また、事業推進に係るグループ基盤(プラットフォーム)の一環として、DXの推進によるデジタルを活用した課題解決が可能となりました。 ハブ機能を担い、経営層との連携を図る ─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 鈴木:2021年11月に相鉄グループ全体でオープンイノベーションの取り組みをスタートするにあたり、経営戦略室・事業創造担当が主体となり、相鉄グループの事業会社の課題やニーズを、実際に各社の担当者を集め、定期的に会議を実施するなどして収集し、事業アイディアの棚卸やビジネスモデルの検討を行いました。 課題としては、事業アイディアやビジネスモデルが多岐に渡り、オープンイノベーションを推進するにあたっての優先順位付けやグループ最適の観点での必要性の検討など、初期スクリーニングの負荷が高く、プロセスの設計やその進め方に関する課題が浮き彫りになったことですね。 ─―では課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 鈴木:経営層と経営戦略室・事業創造担当が定例的に報告会を実施することで緊密に連携し、方向性を擦り合わせることでプログラムの円滑な進行を図りました。 また、定期的に相鉄グループ各社と意見交換し、事業における課題やニーズを収集したうえで、今後もオープンイノベーションを通じた新たな事業アイディアの棚卸やビジネスモデルの検討が出来ればよいと考えています。そのためにグループの事業基盤整備と枠組みの拡張検討に着手しました。 ─―経営層と方向性を合致することは重要ですよね。続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 鈴木:アクセラレータプログラムとして、国内最大級のオープンイノベーションプラットフォームを活用しています。相鉄グループの経営資源とスタートアップの新しいアイディアやテクノロジーを活用し、新しい価値の提供やサービスの創出を目的に実施しており、先ほどもお話しした通り、101件の提案件数があり、共創事業として11件採択しました。 ─―プラットフォームの活用で連携に繋げているのですね。では課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 鈴木:アクセラレータプログラムで収集したスタートアップの共創案の一次スクリーニングを経営戦略室・事業創造担当が担うことで、企画内容の精査を行いました。 また、取組実績に応じた適切な評価を行い最適なオープンイノベーションプラットフォームの探索と活用を行っていきたいと考えています。 ─―一次スクリーニングを一つの部署で担うことは効率的ですね。続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 鈴木:アクセラレータープログラムでは、多くのスタートアップとの接点を獲得し、関係性を構築することができました。 課題としては、多くのスタートアップから提案を受けましたが、採択におけるスクリーニングの負荷が高かったことですね。また、NDA締結においては、上場企業の自社とスタートアップでは必要書類や法務チェックにおける感覚や認識のズレがあり、書類の簡素化やスピード感に課題が感じられました。 こうした課題の解決のために、経済産業省と特許庁が作成した「モデル契約書」を参考にスタートアップと自社における共同研究契約やライセンス契約など、交渉の際に留意すべきポイントに配慮しました。 また、スタートアップとの協業においては、書類の簡素化や自社稟議事項の見直しなどが必要と痛感したほか、スタートアップを育てていくという向き合い方の変化もありました。 ─―続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 鈴木:アクセラレータプログラムで採択したピクシーダストテクノロジーズ株式会社の「すべての人が安心・快適に利用できる意思疎通環境の実現を字幕技術でサポート」にて実証実験を行いました。 具体的には、「字幕透明ディスプレイ」を設置し、駅係員と顧客がディスプレイを通して会話を実施。会話中にマイクで取得した音声が、リアルタイムで字幕に表示されるため、日本語での会話が難しい海外の方、耳の不自由な方、高齢の方と円滑にコミュニケーションを図ることができるツールの検証を行いました。 課題としては、収益化の検討を踏まえた今後の事業展開の方針やその具体的な進め方を定めてゆく必要があると感じたことですね。 こうした課題の解決のために、当初設定したKPIに則り、スタートアップと自社の双方が目指す姿やゴールイメージを共有し、時にKPIやその達成プロセスに立ち戻りながら段階的にPoCを進めてゆくことを心がけました。 また経営層に対して自社/協業先のリリース記事等を用いた情報共有や生活者からの評価を適宜フィードバックすることを徹底しています。 設定したKPIに則りPoCを段階的に進めてゆく事で小さな成功体験を積み上げてゆく事や、今回のPoCで想定外の結果に終わろうとも他の事業フィールドで展開するなど事業可能性の探索を行うことを心がけています。 字幕透明ディスプレイ スタートアップを育て、自社も共に成長する ─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。 鈴木:自社の経営層に当部署が直接働きかけ、情報共有を適宜行うことで、プロジェクト推進におけるスピードの向上を意識しながら取り組んでいます。またグループ各社の連係やノウハウの共有が図れるよう、当部署がハブとなりプロジェクトを推進しています。 ─―一つの部署にハブ機能を持たせることがポイントなのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの調査を活かすための配慮などあれば教えてください。 鈴木:連携するスタートアップの探索段階では複数の視点での評価や検証が必要と感じています。一方、共創を通じてスタートアップを育て、自社も共に成長すると言う観点も必要で、その様な観点を全社で有する事やそのために必要な向き合い方を習得する必要があると考えています。 また連携の段ではスピードを落さないようにNDA締結など、各種契約に必要な書類の簡素化に取り組んでいます。 ─―では最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。 鈴木:省庁や行政が推進するオープンイノベーションに関する内容や活動の情報、また企業がオープンイノベーションを推進する際に有効な各種補助や支援策などの情報を提供していただきたいです。 取材対象プロフィール 相鉄ホールディングス株式会社 経営戦略室 課長 事業創造担当鈴木 洋光氏 インタビュー実施日:2022年11月17日
鉄道・バスの運輸業を中核に、スーパーマーケットを含む流通業、住宅の分譲・賃貸や商業施設の運営・オフィスビル賃貸の事業を主とする不動産業、国内外に60店舗を出店するホテル業ならびに建物管理業などの関連分野に事業展開する35社(相鉄ホールディングス含む)から構成される相鉄グループの、相鉄ホールディングス株式会社 経営戦略室 課長 事業創造担当 鈴木 洋光氏に話を伺った。
鈴木 洋光氏
アクセラレータプログラムの実績
─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。
鈴木:2017年に「街づくり」をテーマに株式会社相鉄アーバンクリエイツ、株式会社相鉄ビルマネジメントでオープンイノベーションの取り組みを始めたのが経緯ですが、その取り組みをグループ全体に広げていくことを目的として、相鉄ホールディングスがオープンイノベーションをリードしていく方針に変更しています。
これまでは、一部の事業会社の収益拡大が目的であり、グループ各社のリソース、人的資源などが効率よく活用できていないなどの課題がありましたが、2021年11月に相鉄ホールディングス株式会社の経営戦略室・事業創造担当が取り組みを継承したことで、相鉄グループ全体としてオープンイノベーションに取り組める体制が整備されました。
─―グループ全体でオープンイノベーションに取り組む体制ができてから、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。
鈴木:オープンイノベーションの目的として一つ目にスタートアップとの協働促進を通じた事業会社を対象とする「事業基盤の整備/拡張」があります。そして二つ目はサステナビリティを軸とした「新たな事業の柱の確立」に向けた「新領域事業開発」です。
達成状況として、2021年度のアクセラレータプログラムの実績として、スタートアップからの提案件数101件、共創事業採択件数11件があります。
相鉄アクセラレータプログラム2021
─―素晴らしい実績ですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。
鈴木:オープンイノベーションを行わず、自社単独で各種取組を進めた場合、相鉄グループのリソースや人的資源が効率よく活用できていないなど、事業推進に係るグループ基盤(プラットフォーム)の構築に繋がらなかったことが想定されますね。
「長期ビジョン”Vision2030”」に掲げられた「事業領域の拡大を通じた中長期の成長基盤増強」を進めるための一つの手法として、取り組んでいるアクセラレータプログラムでは、自分たちでは考えもつかなかったソリューションに触れる機会が増えたほか、スタートアップとの新しいネットワークが構築されました。また、事業推進に係るグループ基盤(プラットフォーム)の一環として、DXの推進によるデジタルを活用した課題解決が可能となりました。
ハブ機能を担い、経営層との連携を図る
─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
鈴木:2021年11月に相鉄グループ全体でオープンイノベーションの取り組みをスタートするにあたり、経営戦略室・事業創造担当が主体となり、相鉄グループの事業会社の課題やニーズを、実際に各社の担当者を集め、定期的に会議を実施するなどして収集し、事業アイディアの棚卸やビジネスモデルの検討を行いました。
課題としては、事業アイディアやビジネスモデルが多岐に渡り、オープンイノベーションを推進するにあたっての優先順位付けやグループ最適の観点での必要性の検討など、初期スクリーニングの負荷が高く、プロセスの設計やその進め方に関する課題が浮き彫りになったことですね。
─―では課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
鈴木:経営層と経営戦略室・事業創造担当が定例的に報告会を実施することで緊密に連携し、方向性を擦り合わせることでプログラムの円滑な進行を図りました。
また、定期的に相鉄グループ各社と意見交換し、事業における課題やニーズを収集したうえで、今後もオープンイノベーションを通じた新たな事業アイディアの棚卸やビジネスモデルの検討が出来ればよいと考えています。そのためにグループの事業基盤整備と枠組みの拡張検討に着手しました。
─―経営層と方向性を合致することは重要ですよね。続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
鈴木:アクセラレータプログラムとして、国内最大級のオープンイノベーションプラットフォームを活用しています。相鉄グループの経営資源とスタートアップの新しいアイディアやテクノロジーを活用し、新しい価値の提供やサービスの創出を目的に実施しており、先ほどもお話しした通り、101件の提案件数があり、共創事業として11件採択しました。
─―プラットフォームの活用で連携に繋げているのですね。では課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
鈴木:アクセラレータプログラムで収集したスタートアップの共創案の一次スクリーニングを経営戦略室・事業創造担当が担うことで、企画内容の精査を行いました。 また、取組実績に応じた適切な評価を行い最適なオープンイノベーションプラットフォームの探索と活用を行っていきたいと考えています。
─―一次スクリーニングを一つの部署で担うことは効率的ですね。続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
鈴木:アクセラレータープログラムでは、多くのスタートアップとの接点を獲得し、関係性を構築することができました。
課題としては、多くのスタートアップから提案を受けましたが、採択におけるスクリーニングの負荷が高かったことですね。また、NDA締結においては、上場企業の自社とスタートアップでは必要書類や法務チェックにおける感覚や認識のズレがあり、書類の簡素化やスピード感に課題が感じられました。
こうした課題の解決のために、経済産業省と特許庁が作成した「モデル契約書」を参考にスタートアップと自社における共同研究契約やライセンス契約など、交渉の際に留意すべきポイントに配慮しました。
また、スタートアップとの協業においては、書類の簡素化や自社稟議事項の見直しなどが必要と痛感したほか、スタートアップを育てていくという向き合い方の変化もありました。
─―続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
鈴木:アクセラレータプログラムで採択したピクシーダストテクノロジーズ株式会社の「すべての人が安心・快適に利用できる意思疎通環境の実現を字幕技術でサポート」にて実証実験を行いました。
具体的には、「字幕透明ディスプレイ」を設置し、駅係員と顧客がディスプレイを通して会話を実施。会話中にマイクで取得した音声が、リアルタイムで字幕に表示されるため、日本語での会話が難しい海外の方、耳の不自由な方、高齢の方と円滑にコミュニケーションを図ることができるツールの検証を行いました。
課題としては、収益化の検討を踏まえた今後の事業展開の方針やその具体的な進め方を定めてゆく必要があると感じたことですね。
こうした課題の解決のために、当初設定したKPIに則り、スタートアップと自社の双方が目指す姿やゴールイメージを共有し、時にKPIやその達成プロセスに立ち戻りながら段階的にPoCを進めてゆくことを心がけました。
また経営層に対して自社/協業先のリリース記事等を用いた情報共有や生活者からの評価を適宜フィードバックすることを徹底しています。
設定したKPIに則りPoCを段階的に進めてゆく事で小さな成功体験を積み上げてゆく事や、今回のPoCで想定外の結果に終わろうとも他の事業フィールドで展開するなど事業可能性の探索を行うことを心がけています。
字幕透明ディスプレイ
スタートアップを育て、自社も共に成長する
─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。
鈴木:自社の経営層に当部署が直接働きかけ、情報共有を適宜行うことで、プロジェクト推進におけるスピードの向上を意識しながら取り組んでいます。またグループ各社の連係やノウハウの共有が図れるよう、当部署がハブとなりプロジェクトを推進しています。
─―一つの部署にハブ機能を持たせることがポイントなのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの調査を活かすための配慮などあれば教えてください。
鈴木:連携するスタートアップの探索段階では複数の視点での評価や検証が必要と感じています。一方、共創を通じてスタートアップを育て、自社も共に成長すると言う観点も必要で、その様な観点を全社で有する事やそのために必要な向き合い方を習得する必要があると考えています。
また連携の段ではスピードを落さないようにNDA締結など、各種契約に必要な書類の簡素化に取り組んでいます。
─―では最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。
鈴木:省庁や行政が推進するオープンイノベーションに関する内容や活動の情報、また企業がオープンイノベーションを推進する際に有効な各種補助や支援策などの情報を提供していただきたいです。
取材対象プロフィール
相鉄ホールディングス株式会社 経営戦略室 課長 事業創造担当
鈴木 洋光氏