「良い仕事をして顧客の信頼を得る」を品質方針として掲げ、切実にものづくりに徹する、前田建設工業株式会社 ICI総合センター イノベーションプロジェクトセンター ICB/INV1推進グループの丸山 勇祐氏に話を伺った。 丸山 勇祐氏 総合建設業を主軸に上流や下流へ事業を広げる ─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。 丸山:DXの推進により技術発展のスピードが加速し、新規事業開発を進めていくためオープンイノベーションへの取り組みの検討を開始しました。また、”脱請負”を掲げて総合建設会社から総合インフラサービス企業への転換を図っており、創業100周年にあたる2019年にオープンイノベーションに関する取り組みを推進する、ICI総合センターを開設しました。総合インフラサービス企業へむけて、総合建設業を主軸に上流や下流へ事業を広げていく中で、従来のリソースでは不足であったことから異業種と連携して新規事業開発を進めるオープンイノベーションに関する取り組みを強化することになりました。 ─―異業種と連携して新規事業開発を進めるところから、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。 丸山:目標は「収益多様化」を設定しています。理由としては、総合建設会社から総合インフラサービス企業への転換を掲げて、新たな収益基盤の確立を模索しているためです。 脱請負ビジネスに向けて建設業以外のビジネスモデルを有する技術、サービスの開発に取り組む中で、自社で有するリソースだけでは不十分ではないかという課題を抱えていました。このため、ICI総合センターにおいてオープンイノベーションに関する取り組みを開始し新技術やの探索、技術協力の取り組みなどを開始しました。しかしながら、具体的な開発目標の方向性の設定を行わずに、スタートアップなど他社が有する技術やサービスを軸に新たな収益事業の開発を目指したことから、各プロジェクトの目的・ゴールの設定が明確化されておらず、迷走するプロジェクトが多発してしまいました。その後、オープンイノベーションに関する取り組みの方針を見直し、現在は本業である総合建設業やコンセッション事業で活用可能な技術、サービスの開発を行っていますが、これまでに製品化されたものは1製品に留まっている状況ですね。 ─―1つでも製品化できたているのは素晴らしいですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。 丸山:オープンイノベーションによる成果は既存事業である建設業やコンセッション事業への活用が主体となっており、オープンイノベーションによる成果測定を行い難い状況です。ただし、これまではロボット開発など自社に知見が乏しい分野でのオープンイノベーションは技術開発のスピード向上の後押しになったと思います。 将来予測から自社とのマッチングを見極める ─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 丸山:オープンイノベーションに関する取り組みを開始した当初は、ICI総合センターの各メンバーが異業種や異分野が持つ技術やサービスの探索を行い、良さそうなものはとりあえず、取り入れて技術や事業の開発に挑戦しました。 課題としては、技術やサービスありきでオープンイノベーションに関する取り組みを進めていたため、明確な方向性やゴールが定まらず迷走する案件が多発したことですね。 ─―明確な方向性を決めておくことが重要だったのですかね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 丸山:2021年からは本業である総合建築事業及びコンセッション事業のニーズに基づいて、オープンイノベーションによる開発プロジェクトを立ち上げるように方針を転換しました。 また、異業種、異分野が有する技術やサービスについて将来予測を行い、なおかつ社内ニーズを踏まえて開発担当者とマッチングを行うようにしています。例えば、2030年のカーボンニュートラルの取り組みに対して、自社がどのように対応してくかについてストーリーを描き、ニーズを具体化させている状況です。 ─―社内ニーズを踏まえてマッチングをするとは素晴らしいですね。続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 丸山:本業でのクライアント、同業者、産学連携による協業企業の探査についてはノウハウを有するため、これまで同様にパートナーの探索を行っています。一方で、スタートアップについては担当者が各自のネットワークを用いて探査する他、ビジネスコンテストを開催して情報の収集を行っています。また、出資するVCからの紹介もありますね。 課題としては、イノベーションに取り組む企業の技術やサービスについては、その技術やサービスを本業である総合建築事業やコンセッション事業にどのように役立てていくか、実際に役立てられるのかについての検証でした。 ─―実際に役立つかどうかの検証は中々難しいですよね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 丸山:目新しい技術やサービスの情報を収集するのではなく、現在は自社の課題を明確化してから、社内のニーズ主導で情報の収集やオープンイノベーションに取り組むように方針を転換しています。 また、VCが主催するイベントへの参加やスタートアップとのネットワークを維持することで、社内のニーズが具体化した際に協力して開発に取り組めるような土壌づくりを行っています。 ─―続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 丸山:具体的には、オープンイノベーションに取り組むパートナー企業の状況、技術、サービスを吟味して、自社内への展開・発展方法を検討しています。 課題としては、スタートアップと協業する場合には、協業企業と自社で該当の技術やサービス開発のゴールが異なる点ですね。社内では協業企業が持つ技術を本業に展開可能な水準まで具体化したいですが、協業企業では様々な事業へ展開していく元段階が完成形と想定していることが多いのが現状です。 こうした課題の解決のために、技術検証やコンセッション事業の中でフィールド試験を行い、当該企業の技術やサービスの実証を厳密に行っています。 また、協業企業が有する技術と自社のニーズとのマッチングをしっかり見極めるようにしていますね。 ─―自社内への展開・発展は重要ですよね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 丸山:研究開発の目的化、関係者との調整、PoC・研究開発の品質の確保に注意を払っています。 課題としては、スタートアップとの取り組みでは、PoCを大企業からの資金調達手段としての意識を持っている企業があり、実証実験を行うことがゴールとなってしまうことから、実験後の事業化が難しいケースがあることですね。 こうした課題の解決のために、PoCにおける評価項目を策定しました。また、今後は実証した技術を社内に落とし込むためのルール作りを検討しています。 今後は、PoCは社内ニーズとマッチするかをしっかりと検証し、価値があるか、また費用対効果についても検証を行うようにしたいと考えています。 社内ニーズを具体的に提示する ─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。 丸山:スタートアップと連携する際には、共同研究を行っている技術とは関係のない案件に対して、実験設備・宿泊施設を提供するなどにより支援を行い、関係性の構築に取り組んでいます。 ─―設備の提供などを通して関係性の構築に取り組まれているのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの長所を活かすための配慮などあれば教えてください。 丸山:オープンイノベーションに関する取り組みを進める上で、自社で注意している点は社内ニーズとそれにより実現させたいことを具体化し、その実現のための支援を協業企業に行ってもらえるように提示するようにしています。また、技術協力にあたっては、基礎開発段階の技術やサービスを取り込むのではなく、実用化を進めていける段階になってから本格的な共同開発に取り組むようにしています。 資金面については、同業者や取引先との共同開発では50%ずつ資金拠出を行うケースが多いですが、スタートアップとの協業については、先方は人員の協力を投資分として、自社が資金を拠出するなど、条件面の調整を行い資金力の乏しいスタートアップを支援しています。 加えて、情報収集を円滑に行うために紹介や問い合わせのあった企業とは連携関係を維持し、必要に応じて協業を行える体制の構築を目指しています。 ─―では最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。 丸山:自社のニーズにマッチするスタートアップの探索を進める上で外部の専門家の利用を検討しています。そのような形でオープンイノベーションに取り組む企業とスタートアップをマッチングさせる仕組みがあるとありがたいです。 取材対象プロフィール 前田建設工業株式会社 ICI総合センター イノベーションプロジェクトセンター ICB/INV推進グループ丸山 勇祐氏 丸山氏は技術研究などを行っているICI総合センターのイノベーションプロジェクトセンターICB/INV推進グループのグループ長である。ICB/INV推進グループはICI総合センターでオープンイノベーションの取り組みを推進する事務局としての位置付けにあり、スタートアップや他の協業企業との社内の取り次ぎや、新しいサービスアイデアについての情報収集、情報交換に取り組まれている。オープンイノベーションに関する取り組みを開始した2018年から当該業務に携わっている。 インタビュー実施日:2022年12月2日
「良い仕事をして顧客の信頼を得る」を品質方針として掲げ、切実にものづくりに徹する、前田建設工業株式会社 ICI総合センター イノベーションプロジェクトセンター ICB/INV1推進グループの丸山 勇祐氏に話を伺った。
丸山 勇祐氏
総合建設業を主軸に上流や下流へ事業を広げる
─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。
丸山:DXの推進により技術発展のスピードが加速し、新規事業開発を進めていくためオープンイノベーションへの取り組みの検討を開始しました。また、”脱請負”を掲げて総合建設会社から総合インフラサービス企業への転換を図っており、創業100周年にあたる2019年にオープンイノベーションに関する取り組みを推進する、ICI総合センターを開設しました。総合インフラサービス企業へむけて、総合建設業を主軸に上流や下流へ事業を広げていく中で、従来のリソースでは不足であったことから異業種と連携して新規事業開発を進めるオープンイノベーションに関する取り組みを強化することになりました。
─―異業種と連携して新規事業開発を進めるところから、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。
丸山:目標は「収益多様化」を設定しています。理由としては、総合建設会社から総合インフラサービス企業への転換を掲げて、新たな収益基盤の確立を模索しているためです。 脱請負ビジネスに向けて建設業以外のビジネスモデルを有する技術、サービスの開発に取り組む中で、自社で有するリソースだけでは不十分ではないかという課題を抱えていました。このため、ICI総合センターにおいてオープンイノベーションに関する取り組みを開始し新技術やの探索、技術協力の取り組みなどを開始しました。しかしながら、具体的な開発目標の方向性の設定を行わずに、スタートアップなど他社が有する技術やサービスを軸に新たな収益事業の開発を目指したことから、各プロジェクトの目的・ゴールの設定が明確化されておらず、迷走するプロジェクトが多発してしまいました。その後、オープンイノベーションに関する取り組みの方針を見直し、現在は本業である総合建設業やコンセッション事業で活用可能な技術、サービスの開発を行っていますが、これまでに製品化されたものは1製品に留まっている状況ですね。
─―1つでも製品化できたているのは素晴らしいですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。
丸山:オープンイノベーションによる成果は既存事業である建設業やコンセッション事業への活用が主体となっており、オープンイノベーションによる成果測定を行い難い状況です。ただし、これまではロボット開発など自社に知見が乏しい分野でのオープンイノベーションは技術開発のスピード向上の後押しになったと思います。
将来予測から自社とのマッチングを見極める
─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
丸山:オープンイノベーションに関する取り組みを開始した当初は、ICI総合センターの各メンバーが異業種や異分野が持つ技術やサービスの探索を行い、良さそうなものはとりあえず、取り入れて技術や事業の開発に挑戦しました。
課題としては、技術やサービスありきでオープンイノベーションに関する取り組みを進めていたため、明確な方向性やゴールが定まらず迷走する案件が多発したことですね。
─―明確な方向性を決めておくことが重要だったのですかね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
丸山:2021年からは本業である総合建築事業及びコンセッション事業のニーズに基づいて、オープンイノベーションによる開発プロジェクトを立ち上げるように方針を転換しました。
また、異業種、異分野が有する技術やサービスについて将来予測を行い、なおかつ社内ニーズを踏まえて開発担当者とマッチングを行うようにしています。例えば、2030年のカーボンニュートラルの取り組みに対して、自社がどのように対応してくかについてストーリーを描き、ニーズを具体化させている状況です。
─―社内ニーズを踏まえてマッチングをするとは素晴らしいですね。続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
丸山:本業でのクライアント、同業者、産学連携による協業企業の探査についてはノウハウを有するため、これまで同様にパートナーの探索を行っています。一方で、スタートアップについては担当者が各自のネットワークを用いて探査する他、ビジネスコンテストを開催して情報の収集を行っています。また、出資するVCからの紹介もありますね。
課題としては、イノベーションに取り組む企業の技術やサービスについては、その技術やサービスを本業である総合建築事業やコンセッション事業にどのように役立てていくか、実際に役立てられるのかについての検証でした。
─―実際に役立つかどうかの検証は中々難しいですよね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
丸山:目新しい技術やサービスの情報を収集するのではなく、現在は自社の課題を明確化してから、社内のニーズ主導で情報の収集やオープンイノベーションに取り組むように方針を転換しています。
また、VCが主催するイベントへの参加やスタートアップとのネットワークを維持することで、社内のニーズが具体化した際に協力して開発に取り組めるような土壌づくりを行っています。
─―続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
丸山:具体的には、オープンイノベーションに取り組むパートナー企業の状況、技術、サービスを吟味して、自社内への展開・発展方法を検討しています。
課題としては、スタートアップと協業する場合には、協業企業と自社で該当の技術やサービス開発のゴールが異なる点ですね。社内では協業企業が持つ技術を本業に展開可能な水準まで具体化したいですが、協業企業では様々な事業へ展開していく元段階が完成形と想定していることが多いのが現状です。
こうした課題の解決のために、技術検証やコンセッション事業の中でフィールド試験を行い、当該企業の技術やサービスの実証を厳密に行っています。
また、協業企業が有する技術と自社のニーズとのマッチングをしっかり見極めるようにしていますね。
─―自社内への展開・発展は重要ですよね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
丸山:研究開発の目的化、関係者との調整、PoC・研究開発の品質の確保に注意を払っています。
課題としては、スタートアップとの取り組みでは、PoCを大企業からの資金調達手段としての意識を持っている企業があり、実証実験を行うことがゴールとなってしまうことから、実験後の事業化が難しいケースがあることですね。
こうした課題の解決のために、PoCにおける評価項目を策定しました。また、今後は実証した技術を社内に落とし込むためのルール作りを検討しています。
今後は、PoCは社内ニーズとマッチするかをしっかりと検証し、価値があるか、また費用対効果についても検証を行うようにしたいと考えています。
社内ニーズを具体的に提示する
─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。
丸山:スタートアップと連携する際には、共同研究を行っている技術とは関係のない案件に対して、実験設備・宿泊施設を提供するなどにより支援を行い、関係性の構築に取り組んでいます。
─―設備の提供などを通して関係性の構築に取り組まれているのですね。また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの長所を活かすための配慮などあれば教えてください。
丸山:オープンイノベーションに関する取り組みを進める上で、自社で注意している点は社内ニーズとそれにより実現させたいことを具体化し、その実現のための支援を協業企業に行ってもらえるように提示するようにしています。また、技術協力にあたっては、基礎開発段階の技術やサービスを取り込むのではなく、実用化を進めていける段階になってから本格的な共同開発に取り組むようにしています。
資金面については、同業者や取引先との共同開発では50%ずつ資金拠出を行うケースが多いですが、スタートアップとの協業については、先方は人員の協力を投資分として、自社が資金を拠出するなど、条件面の調整を行い資金力の乏しいスタートアップを支援しています。
加えて、情報収集を円滑に行うために紹介や問い合わせのあった企業とは連携関係を維持し、必要に応じて協業を行える体制の構築を目指しています。
─―では最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。
丸山:自社のニーズにマッチするスタートアップの探索を進める上で外部の専門家の利用を検討しています。そのような形でオープンイノベーションに取り組む企業とスタートアップをマッチングさせる仕組みがあるとありがたいです。
取材対象プロフィール
前田建設工業株式会社 ICI総合センター イノベーションプロジェクトセンター ICB/INV推進グループ
丸山 勇祐氏
丸山氏は技術研究などを行っているICI総合センターのイノベーションプロジェクトセンターICB/INV推進グループのグループ長である。ICB/INV推進グループはICI総合センターでオープンイノベーションの取り組みを推進する事務局としての位置付けにあり、スタートアップや他の協業企業との社内の取り次ぎや、新しいサービスアイデアについての情報収集、情報交換に取り組まれている。オープンイノベーションに関する取り組みを開始した2018年から当該業務に携わっている。