社内外の多様な技術連携により新しい社会価値を想像する、株式会社福山コンサルタント 新規事業推進室 室長の國分 恒彰氏に話を伺った。 國分 恒彰氏 中長期経営計画に盛り込んだ「連携」 ─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。 國分:建設コンサルタント業界の現状の業務内容だけでは、今後の人口減少等を鑑みると、業界全体の事業規模の縮小が危惧されます。しかし、我々がこれまで培ってきた技術は、これまでの既存事業だけでなく、今後必要な多くの分野において応用可能であると考えていました。このため、新規事業開発の必要性を感じ検討をスタートしました。この取り組みを進めるに当たって、福山コンサルタントだけでは、リソース不足であったため、新たに株式会社SVI研究所を設立しました。我々が持つ技術だけなく、新規事業を開発していくためには、我々だけの技術では不足する面やスピード感に欠ける面が危惧されたため、他社が保有する技術と連携したオープンイノベーションの取り組みを進めていく必要がありました。この時期はビッグデータホルダーやIT系企業などもオープンイノベーションに積極的であったことが、さらに後押しになりました。 ─―積極的な新規事業のスタートから、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。 國分:人口減を見据えた中長期的な中長期経営計画(2023年6月期から6年間)を策定しました。経営計画においても「連携」を進めることで、オープンイノベーションに注力していく方針をとっています。半期に1度、社内で進捗報告を行っていますが、前半3年間にあたる2026年6月期時点で進捗が悪いものは、後半3年間で中止する予定です。(株)FCホールディングスとして、これからの3年間、100億円の売上高を見込んでおり、後半3年間はオープンイノベーションなどに注力することによって130億円の売上高を目指しています。 ─―経営計画としてもイノベーションの目標を掲げているのですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。 國分:人口減に伴う事業縮小が予想されるほか、国の予算に連動する業界です。民主党政権時は大きく業況が悪化した経緯もあるため、国の動向に左右される点は強く感じています。 人事評価の改善と新しい社内文化の発信 ─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 國分:具体的な取組としては、事業アイディアを全社員から募集する「新規事業創出タスクフォース」を毎年開催しており、期待できるものがあれば、発案者を研究開発に従事させています。世の中にとっての貢献性があるプロジェクトが多いですが、収益性の確保が課題ですね。これまでに新規事業創出タスクフォースに応募した社員の中から2名をSVI研究所に3年間出向させたのち、2022年4月に合同会社を設立して事業化のスピードを上げて取り組んでいる事例があります。 新規事業創出タスクフォースの議論風景 ─―収益性を見込めるのは中々難しいですよね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 國分:新規事業創出に関わる社員のモチベーションを向上させるため、2022年6月期より人事評価の改善を実施しました。具体的には、利益配分を行う単純明快な評価制度でしたが、取り組みの目標に対する振り返りを行い、点数化することを行っています。 また、2022年7月頃からスタートしているのが、株式会社FCホールディングス傘下のグループ企業との関わりを強く持つようになったことです。環境・防災事業に強みを持つ株式会社環境防災、生態系の環境事業に強みを持つ株式会社エコプラン研究所、海外事業に強みを持つ株式会社地球システム科学とお互いの強みを活かした新たな事業展開を進めています。 ─―社員を新規事業に注力させる仕組みづくりは難しいですよね。続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 國分:各種展示会への出展や、スタートアップマッチングイベントなどの活用や、スタートアップ紹介サービス等を活用して連携企業を探しています。連携企業の技術力や、弊社との相性の見極めが課題だと感じています。例えば、AIの開発を行っているスタートアップは非常に多くおられますが、各社それぞれに強みを持っておられ、その強みと弊社の技術がうまくマッチするか否かの判断が難しいと感じています。 ─―連携相手としてやっていけるか見極めるのは難しいですよね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。 國分:技術的な側面だけなく、各社の考え方や担当者の熱意なども重要だと思っており、会議の場だけでなく「飲みにケーション」の場が大事だと思っております。お互いに胸襟を開いて語り合うことにより、より高いレベルでシナジーが生まれたり、新しいアイディアが生まれることも少なくありません。しかし、最近ではコロナ禍でこのような機会が減少してきています。 ─―アイディア創出の場が減少したという声は他の企業様でもうかがいますね。続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 國分:対面で会うなかで余談を踏まえ、新たな気づきがありました。テーマを逸脱した話題にも触れたいが、そのようなものがないのが現状です。オンライン面談が定着しつつあり、遠方に対してはなるべく出向くようにしていますが、完全に戻りきっていないですね。 課題としては、やはり対面で情報交換を行いたいですが、コロナ禍もあって先方から断れてしまうことですね。 こうした課題の解決のために、直接出向くような呼びかけ「ビール片手に話しましょう」と誘ったり、深い情報交換ができるよう、できるだけ夜の食事も誘ったりするようにしています。 ─―コロナ禍も収まりつつあるので、今後は対面での情報交換の場が増えるといいですね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 國分:国土交通省が主導して3D都市モデルデータ活用を進めているPLATEAUのユースケース開発を今年度から始めています。先行して開発を進めていたAI浸水予測の結果を3Dで可視化し、防災意識の向上に役立てようとしています。東京都板橋区で開発したアプリを用いた実証実験を行う予定としております。現時点の課題は、AI開発や3Dデータ可視化等を担えるIT系人材の確保ですね。類似の研究をされている大学へアプローチして学生を紹介して頂こうとしているところです。 東京都板橋区における実証実験風景(2023年1月19日に実施したものです) ─―続いて、事業化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 國分:冒頭でお話した新規事業創出タスクフォースへの応募からスタートした人流可視化技術を中心とするデータ解析ソリューションを提供するスマートコミュニティ事業をSVI研究所での3年間の研究を経て、2020年4月に社内ベンチャーとしてFracti合同会社を設立しました。来月から、Bリーグ機構と共同で地域周遊活性化の実証実験を実施する予定しており、実証実験結果を踏まえて事業化を加速していきたいと思っております。課題としては失敗を許容する文化の醸成ですね。ベンチャーなので色々なことにチャレンジして、多くの失敗を重ねていくことが重要だと思っています。 https://fracti.co.jp/blgasg-mito/ Fracti合同会社を立ち上げたみなさん ─―情報の多様な活用への取り組みは素晴らしいですね。続いて、スケール化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。 國分:橋梁の基礎が豪雨で洗掘されていないか遠隔でモニタリングするシステムを開発しており、一部橋梁で実装して頂いております。橋梁の固有振動数に着目したモニタリングシステムで自治体からも高評価を頂いているところです。しかし、橋梁の洗掘リスクを理解して頂くために丁寧な説明を繰り返す必要があり、社内の営業リソースも限りがある中で想定よりもスケールのスピードが遅くなっています。現在は、動画等を活用して少ないリソースで効率的な営業展開が進められるよう取組みを始めています。 会話でつかむ連携相手の情報 ─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。 國分:グループ企業間で会社の枠を超えて情報交換を行うコミュニケーションツールを導入し、ここで各社が実施している新たな取組みや各社連携で取り組んでいる案件の情報をオープンにしながら進めています。まだ始めて間もないのですが、新たな取組みがここから生まれてくることに期待しています。 ─―また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの調査を活かすための配慮などあれば教えてください。 國分:スタートアップの社長に会うようにし、ホームページに載っていない情報や理念を掴むようにしています。 ─―足を運んで対面で情報共有することがポイントということですかね。最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。 國分:国土交通省では今年から道路インフラの点検情報等のデータをオープン化する取組みを始めておられますが、自治体が保有している各種データをもっとオープン化して頂けると様々な場面で有効活用が出来ると思いますので、是非お願いしたいです。 取材対象プロフィール 株式会社福山コンサルタント 新事業推進室 室長國分 恒彰氏 2017年度より技術企画室に配属。2018年度より(株)SVI研究所の取締役に就任。2020年度より新規事業推進室室長に就任。2022年度より(株)SVI研究所の代表取締役社長に就任し、現在に至る。日頃は、アライアンス企業との研究開発に於けるマネジメント(進捗確認など)。通常、国交省から依頼を受けて研究することが多いが、オープンイノベーションについては、民間企業との調整に慣れていない社員が多いため、自身の経験を以てマネジメントを行っている。 インタビュー実施日:2022年11月18日
社内外の多様な技術連携により新しい社会価値を想像する、株式会社福山コンサルタント 新規事業推進室 室長の國分 恒彰氏に話を伺った。
國分 恒彰氏
中長期経営計画に盛り込んだ「連携」
─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。
國分:建設コンサルタント業界の現状の業務内容だけでは、今後の人口減少等を鑑みると、業界全体の事業規模の縮小が危惧されます。しかし、我々がこれまで培ってきた技術は、これまでの既存事業だけでなく、今後必要な多くの分野において応用可能であると考えていました。このため、新規事業開発の必要性を感じ検討をスタートしました。この取り組みを進めるに当たって、福山コンサルタントだけでは、リソース不足であったため、新たに株式会社SVI研究所を設立しました。我々が持つ技術だけなく、新規事業を開発していくためには、我々だけの技術では不足する面やスピード感に欠ける面が危惧されたため、他社が保有する技術と連携したオープンイノベーションの取り組みを進めていく必要がありました。この時期はビッグデータホルダーやIT系企業などもオープンイノベーションに積極的であったことが、さらに後押しになりました。
─―積極的な新規事業のスタートから、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。
國分:人口減を見据えた中長期的な中長期経営計画(2023年6月期から6年間)を策定しました。経営計画においても「連携」を進めることで、オープンイノベーションに注力していく方針をとっています。半期に1度、社内で進捗報告を行っていますが、前半3年間にあたる2026年6月期時点で進捗が悪いものは、後半3年間で中止する予定です。(株)FCホールディングスとして、これからの3年間、100億円の売上高を見込んでおり、後半3年間はオープンイノベーションなどに注力することによって130億円の売上高を目指しています。
─―経営計画としてもイノベーションの目標を掲げているのですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。
國分:人口減に伴う事業縮小が予想されるほか、国の予算に連動する業界です。民主党政権時は大きく業況が悪化した経緯もあるため、国の動向に左右される点は強く感じています。
人事評価の改善と新しい社内文化の発信
─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸・ビジネスモデル検討における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
國分:具体的な取組としては、事業アイディアを全社員から募集する「新規事業創出タスクフォース」を毎年開催しており、期待できるものがあれば、発案者を研究開発に従事させています。世の中にとっての貢献性があるプロジェクトが多いですが、収益性の確保が課題ですね。これまでに新規事業創出タスクフォースに応募した社員の中から2名をSVI研究所に3年間出向させたのち、2022年4月に合同会社を設立して事業化のスピードを上げて取り組んでいる事例があります。
新規事業創出タスクフォースの議論風景
─―収益性を見込めるのは中々難しいですよね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
國分:新規事業創出に関わる社員のモチベーションを向上させるため、2022年6月期より人事評価の改善を実施しました。具体的には、利益配分を行う単純明快な評価制度でしたが、取り組みの目標に対する振り返りを行い、点数化することを行っています。
また、2022年7月頃からスタートしているのが、株式会社FCホールディングス傘下のグループ企業との関わりを強く持つようになったことです。環境・防災事業に強みを持つ株式会社環境防災、生態系の環境事業に強みを持つ株式会社エコプラン研究所、海外事業に強みを持つ株式会社地球システム科学とお互いの強みを活かした新たな事業展開を進めています。
─―社員を新規事業に注力させる仕組みづくりは難しいですよね。続いて、連携相手の探索における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
國分:各種展示会への出展や、スタートアップマッチングイベントなどの活用や、スタートアップ紹介サービス等を活用して連携企業を探しています。連携企業の技術力や、弊社との相性の見極めが課題だと感じています。例えば、AIの開発を行っているスタートアップは非常に多くおられますが、各社それぞれに強みを持っておられ、その強みと弊社の技術がうまくマッチするか否かの判断が難しいと感じています。
─―連携相手としてやっていけるか見極めるのは難しいですよね。課題解決のために取り組まれていることがあれば教えてください。
國分:技術的な側面だけなく、各社の考え方や担当者の熱意なども重要だと思っており、会議の場だけでなく「飲みにケーション」の場が大事だと思っております。お互いに胸襟を開いて語り合うことにより、より高いレベルでシナジーが生まれたり、新しいアイディアが生まれることも少なくありません。しかし、最近ではコロナ禍でこのような機会が減少してきています。
─―アイディア創出の場が減少したという声は他の企業様でもうかがいますね。続いて、情報交換・協業における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
國分:対面で会うなかで余談を踏まえ、新たな気づきがありました。テーマを逸脱した話題にも触れたいが、そのようなものがないのが現状です。オンライン面談が定着しつつあり、遠方に対してはなるべく出向くようにしていますが、完全に戻りきっていないですね。
課題としては、やはり対面で情報交換を行いたいですが、コロナ禍もあって先方から断れてしまうことですね。
こうした課題の解決のために、直接出向くような呼びかけ「ビール片手に話しましょう」と誘ったり、深い情報交換ができるよう、できるだけ夜の食事も誘ったりするようにしています。
─―コロナ禍も収まりつつあるので、今後は対面での情報交換の場が増えるといいですね。続いて、PoC・研究開発における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
國分:国土交通省が主導して3D都市モデルデータ活用を進めているPLATEAUのユースケース開発を今年度から始めています。先行して開発を進めていたAI浸水予測の結果を3Dで可視化し、防災意識の向上に役立てようとしています。東京都板橋区で開発したアプリを用いた実証実験を行う予定としております。現時点の課題は、AI開発や3Dデータ可視化等を担えるIT系人材の確保ですね。類似の研究をされている大学へアプローチして学生を紹介して頂こうとしているところです。
東京都板橋区における実証実験風景
(2023年1月19日に実施したものです)
─―続いて、事業化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
國分:冒頭でお話した新規事業創出タスクフォースへの応募からスタートした人流可視化技術を中心とするデータ解析ソリューションを提供するスマートコミュニティ事業をSVI研究所での3年間の研究を経て、2020年4月に社内ベンチャーとしてFracti合同会社を設立しました。来月から、Bリーグ機構と共同で地域周遊活性化の実証実験を実施する予定しており、実証実験結果を踏まえて事業化を加速していきたいと思っております。課題としては失敗を許容する文化の醸成ですね。ベンチャーなので色々なことにチャレンジして、多くの失敗を重ねていくことが重要だと思っています。
https://fracti.co.jp/blgasg-mito/
Fracti合同会社を立ち上げたみなさん
─―情報の多様な活用への取り組みは素晴らしいですね。続いて、スケール化における具体的な取組内容や発生した課題などについて教えてください。
國分:橋梁の基礎が豪雨で洗掘されていないか遠隔でモニタリングするシステムを開発しており、一部橋梁で実装して頂いております。橋梁の固有振動数に着目したモニタリングシステムで自治体からも高評価を頂いているところです。しかし、橋梁の洗掘リスクを理解して頂くために丁寧な説明を繰り返す必要があり、社内の営業リソースも限りがある中で想定よりもスケールのスピードが遅くなっています。現在は、動画等を活用して少ないリソースで効率的な営業展開が進められるよう取組みを始めています。
会話でつかむ連携相手の情報
─―PoC・研究開発のスピードを加速するためには、助け合いの文化や部署の枠を超えた交流が重要という分析結果が出ておりますが、御社においてそうした内容で何か特別な工夫をされていましたら教えてください。
國分:グループ企業間で会社の枠を超えて情報交換を行うコミュニケーションツールを導入し、ここで各社が実施している新たな取組みや各社連携で取り組んでいる案件の情報をオープンにしながら進めています。まだ始めて間もないのですが、新たな取組みがここから生まれてくることに期待しています。
─―また、スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの調査を活かすための配慮などあれば教えてください。
國分:スタートアップの社長に会うようにし、ホームページに載っていない情報や理念を掴むようにしています。
─―足を運んで対面で情報共有することがポイントということですかね。最後に行政に対する意見や要望がありましたら教えてください。
國分:国土交通省では今年から道路インフラの点検情報等のデータをオープン化する取組みを始めておられますが、自治体が保有している各種データをもっとオープン化して頂けると様々な場面で有効活用が出来ると思いますので、是非お願いしたいです。
取材対象プロフィール
株式会社福山コンサルタント 新事業推進室 室長
國分 恒彰氏
2017年度より技術企画室に配属。2018年度より(株)SVI研究所の取締役に就任。2020年度より新規事業推進室室長に就任。2022年度より(株)SVI研究所の代表取締役社長に就任し、現在に至る。日頃は、アライアンス企業との研究開発に於けるマネジメント(進捗確認など)。通常、国交省から依頼を受けて研究することが多いが、オープンイノベーションについては、民間企業との調整に慣れていない社員が多いため、自身の経験を以てマネジメントを行っている。