「ミライ価値」の創造に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献する大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 オープンイノベーション室長 小幡氏、同部 ビジネスインキュベーション第1チーム 鶴田氏に話を伺った。 左から小幡氏、鶴田氏 オープンイノベーションで100件以上もの成果を上げる社風 ─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。 小幡氏:オープンイノベーション室が創設されたのは2009年ですが、オープンイノベーションという言葉が世に定着する前から外部より情報収集や戦略の立案などは実施してきました。 当時、海外ではそうした活動を行っている企業はいましたが、日本ではほとんど例がなかったですね。 オープンイノベーションを始める前に感じていた課題としては、自前主義からの脱却です。特に「オール電化」が注目を浴び始めており、他の業界との連携が必要不可欠な事業環境に変化していたということが大きいです。 ─―世にオープンイノベーションという言葉が定着する前から取り組んでいらっしゃったようですが、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。 小幡氏:「新製品開発のスピードアップやコストダウンとともに新事業創出」を目的としています。理由としては、弊社の社風として「新たなことに素早くチャレンジしたい」が存在するからです。 これまでの取り組みの成果としては、弊社グループから890件のニーズを集約したことが挙げられます。これだけのニーズを集約できたのも、初年度の2009年時点で集められたニーズに対して、外部技術探索にて多くの成果を上げることができたという実績があったからこそだと思います。2021年度までで約8,200件に及ぶ外部からの技術提案が寄せられ、具体的な成果が出た案件が130件以上になります。 ─―すばらしい成果ですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。 小幡氏:弊社はオープンイノベーションという言葉が世に浸透する前から外部より情報等を収集してきた為、オープンイノベーションを行わなければ、弊社の製品やサービスが世に出ていないもしくは新サービス等のリリースに時間を要していた可能性もありますね。 グループ内の様々なニーズと外部技術を結びつける仲介役 ─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸における具体的な取組内容について教えてください。 小幡氏:社内で顕在化している事業アイディア・技術ニーズについては社内でのヒアリングをベースにニーズをまとめています。こうして集約したニーズについて各地域の中小企業支援機関様等にお声がけして探索したり、弊社WEB上でニーズを公開して応募を募ったりして、外部技術の探索を行っております。 鶴田氏:顕在化していない新たな事業アイディアの創造に向けては、外部技術の探索の一環で、最先端技術の探索ルートの一つとしてシリコンバレーに注目しております。2016年度から現地のPlug and Play, LLCのtech centerにブースを構え、2018年度にはシリコンバレーに事務所を設置し、現地での情報収集活動を行っております。 ─―各部署のニーズを多角的に発信することで連携相手の募集へと繋げていらっしゃるのですね。貴社グループ全体と考えますと様々な技術分野かと存じますが、イノベーション推進部におけるご負担も大きいのではないでしょうか。 小幡氏:イノベーション推進部には、様々な事業部門をバックグラウンドとしたメンバーが集まっているため、各ニーズの技術的課題を理解したうえで、外部企業には要望を説明しています。 また、ニーズに関する外部へのプレゼンテーションにおいては、支援機関様の協力をいただきながら、ご提案時のポイントを説明するなどにより、よりよいマッチングができるようコーディネートしております。 コーディネート後は、ニーズを挙げた原局と提案企業様との直接のやり取りとなりますが、実用化までの各フェーズに関して、社外技術を積極的に取り入れられております。 ─―シリコンバレーのネットワーク等を活用した外部技術の探索により、新たな事業アイディアの創造につなげられているということですが、具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。 鶴田氏:シリコンバレーに拠点を置くベンチャーキャピタルであるWiL, LLCのファンドへの出資によって、月に30件ほどの有力スタートアップに関する投資情報をキャッチしておりますので、弊社にとって価値のあるスタートアップに対してアプローチができるようになっています。 これに加え、シリコンバレーの現地で得られる情報や国内外の動向も踏まえ、弊社事業部門とのコミュニケーションにより新しい事業アイディアの検討を行っています。 また、具体的なスタートアップへの出資・連携の事例としては、リユース蓄電池を活用した系統用蓄電池の事業化をめざし、蓄電池の制御技術を保有するNExT-e Solutions株式会社との資本業務提携や、アバターの社会実装を目指したAVITA株式会社と資本提携し、共同開発したアバターを活用したオンライン相談を開始するなど、ここ数年で10社以上の出資・連携を行っています。 人間そっくりのアバター「デジタルヒューマン」 ─―数多くの出資・連携を進める中で直面する大きな課題はあるでしょうか。 鶴田氏:ここ数年での取り組みであるため、現時点では大きな課題に直面しておりませんが、スタートアップとの連携にはスピードが求められていると感じています。 また、弊社にとっては新たな取り組みとして、先ほどもお話ししましたベンチャーキャピタルのWiL, LLCと共同でSPACECOOL株式会社というスタートアップを立ち上げました。 同社は弊社の独自開発の放射冷却素材である「SPACECOOL」を商材としており、2021年には夢州の万博会場予定地での省エネ性や快適性の実証実験を行い、2022年には「SPACECOOL」を用いた商品化も実現しております。 新規事業創出に強みを持つWiL, LLCと共同で事業展開することで、非常に早いスピードでの事業拡大も見えてきております。既に展開を進めている屋外機器向け以外でも、建築関係や物流関係のパートナー企業等と連携した検証・導入を加速していきたいと考えています。 放射冷却素材「SPACECOOL」 ─―スピードディーな対応はスタートアップと連携するうえで重要なポイントでありますよね。スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの調査を活かすための配慮などあれば教えてください。 鶴田氏:スタートアップとの連携において「マネタイズの時期」「社内調整に時間がかかる」「リソースをどのように確保するか」などの点には直面したケースはありますが、なるべくイノベーション推進部が円滑に事業化できるよう事業組織と一体となって進めております。 取材対象プロフィール 大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 オープンイノベーション室長小幡氏 大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 オープンイノベーション室長 社外の新たな技術・サービスに関わる調査・探索とそれらのDaigasグループでの活用を推進している。 大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 ビジネスインキュベーション第1チーム 副課長鶴田氏 大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 ビジネスインキュベーション第1チーム 副課長 サービス分野、脱炭素・クリーンテック分野における情報探索とスタートアップを始めとした外部との連携・出資を通じた新規ビジネス創出を手掛けている。 インタビュー実施日:2022年12月12日
「ミライ価値」の創造に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献する大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 オープンイノベーション室長 小幡氏、同部 ビジネスインキュベーション第1チーム 鶴田氏に話を伺った。
左から小幡氏、鶴田氏
オープンイノベーションで100件以上もの成果を上げる社風
─―オープンイノベーションの取組を始められた経緯や始められる前に感じられていた課題について教えてください。
小幡氏:オープンイノベーション室が創設されたのは2009年ですが、オープンイノベーションという言葉が世に定着する前から外部より情報収集や戦略の立案などは実施してきました。
当時、海外ではそうした活動を行っている企業はいましたが、日本ではほとんど例がなかったですね。
オープンイノベーションを始める前に感じていた課題としては、自前主義からの脱却です。特に「オール電化」が注目を浴び始めており、他の業界との連携が必要不可欠な事業環境に変化していたということが大きいです。
─―世にオープンイノベーションという言葉が定着する前から取り組んでいらっしゃったようですが、どのようにオープンイノベーションの目的を設定されましたか。目的の達成状況と合わせて教えてください。
小幡氏:「新製品開発のスピードアップやコストダウンとともに新事業創出」を目的としています。理由としては、弊社の社風として「新たなことに素早くチャレンジしたい」が存在するからです。
これまでの取り組みの成果としては、弊社グループから890件のニーズを集約したことが挙げられます。これだけのニーズを集約できたのも、初年度の2009年時点で集められたニーズに対して、外部技術探索にて多くの成果を上げることができたという実績があったからこそだと思います。2021年度までで約8,200件に及ぶ外部からの技術提案が寄せられ、具体的な成果が出た案件が130件以上になります。
─―すばらしい成果ですね。もし、オープンイノベーションを実施していなかったらどうなっていたかと思いますか。
小幡氏:弊社はオープンイノベーションという言葉が世に浸透する前から外部より情報等を収集してきた為、オープンイノベーションを行わなければ、弊社の製品やサービスが世に出ていないもしくは新サービス等のリリースに時間を要していた可能性もありますね。
グループ内の様々なニーズと外部技術を結びつける仲介役
─―続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、事業アイディアの棚卸における具体的な取組内容について教えてください。
小幡氏:社内で顕在化している事業アイディア・技術ニーズについては社内でのヒアリングをベースにニーズをまとめています。こうして集約したニーズについて各地域の中小企業支援機関様等にお声がけして探索したり、弊社WEB上でニーズを公開して応募を募ったりして、外部技術の探索を行っております。
鶴田氏:顕在化していない新たな事業アイディアの創造に向けては、外部技術の探索の一環で、最先端技術の探索ルートの一つとしてシリコンバレーに注目しております。2016年度から現地のPlug and Play, LLCのtech centerにブースを構え、2018年度にはシリコンバレーに事務所を設置し、現地での情報収集活動を行っております。
─―各部署のニーズを多角的に発信することで連携相手の募集へと繋げていらっしゃるのですね。貴社グループ全体と考えますと様々な技術分野かと存じますが、イノベーション推進部におけるご負担も大きいのではないでしょうか。
小幡氏:イノベーション推進部には、様々な事業部門をバックグラウンドとしたメンバーが集まっているため、各ニーズの技術的課題を理解したうえで、外部企業には要望を説明しています。
また、ニーズに関する外部へのプレゼンテーションにおいては、支援機関様の協力をいただきながら、ご提案時のポイントを説明するなどにより、よりよいマッチングができるようコーディネートしております。
コーディネート後は、ニーズを挙げた原局と提案企業様との直接のやり取りとなりますが、実用化までの各フェーズに関して、社外技術を積極的に取り入れられております。
─―シリコンバレーのネットワーク等を活用した外部技術の探索により、新たな事業アイディアの創造につなげられているということですが、具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。
鶴田氏:シリコンバレーに拠点を置くベンチャーキャピタルであるWiL, LLCのファンドへの出資によって、月に30件ほどの有力スタートアップに関する投資情報をキャッチしておりますので、弊社にとって価値のあるスタートアップに対してアプローチができるようになっています。
これに加え、シリコンバレーの現地で得られる情報や国内外の動向も踏まえ、弊社事業部門とのコミュニケーションにより新しい事業アイディアの検討を行っています。
また、具体的なスタートアップへの出資・連携の事例としては、リユース蓄電池を活用した系統用蓄電池の事業化をめざし、蓄電池の制御技術を保有するNExT-e Solutions株式会社との資本業務提携や、アバターの社会実装を目指したAVITA株式会社と資本提携し、共同開発したアバターを活用したオンライン相談を開始するなど、ここ数年で10社以上の出資・連携を行っています。
人間そっくりのアバター「デジタルヒューマン」
─―数多くの出資・連携を進める中で直面する大きな課題はあるでしょうか。
鶴田氏:ここ数年での取り組みであるため、現時点では大きな課題に直面しておりませんが、スタートアップとの連携にはスピードが求められていると感じています。 また、弊社にとっては新たな取り組みとして、先ほどもお話ししましたベンチャーキャピタルのWiL, LLCと共同でSPACECOOL株式会社というスタートアップを立ち上げました。
同社は弊社の独自開発の放射冷却素材である「SPACECOOL」を商材としており、2021年には夢州の万博会場予定地での省エネ性や快適性の実証実験を行い、2022年には「SPACECOOL」を用いた商品化も実現しております。
新規事業創出に強みを持つWiL, LLCと共同で事業展開することで、非常に早いスピードでの事業拡大も見えてきております。既に展開を進めている屋外機器向け以外でも、建築関係や物流関係のパートナー企業等と連携した検証・導入を加速していきたいと考えています。
放射冷却素材「SPACECOOL」
─―スピードディーな対応はスタートアップと連携するうえで重要なポイントでありますよね。スタートアップと協業を行う上で、スピードを落とさないための工夫やスタートアップの調査を活かすための配慮などあれば教えてください。
鶴田氏:スタートアップとの連携において「マネタイズの時期」「社内調整に時間がかかる」「リソースをどのように確保するか」などの点には直面したケースはありますが、なるべくイノベーション推進部が円滑に事業化できるよう事業組織と一体となって進めております。
取材対象プロフィール
大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 オープンイノベーション室長
小幡氏
大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 オープンイノベーション室長
社外の新たな技術・サービスに関わる調査・探索とそれらのDaigasグループでの活用を推進している。
大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 ビジネスインキュベーション第1チーム 副課長
鶴田氏
大阪ガス株式会社 イノベーション推進部 ビジネスインキュベーション第1チーム 副課長
サービス分野、脱炭素・クリーンテック分野における情報探索とスタートアップを始めとした外部との連携・出資を通じた新規ビジネス創出を手掛けている。