『冴えわたる感受性』から生み出される独創的かつ色彩豊かなアイデアで、お客さまに『もっと楽しく、もっと心豊かに。人生を変えていくこと』を提案していく、株式会社ポーラ・オルビスホールディングス(取材当時)の松本 剛氏(以下、松本)、近藤 千尋氏(以下、近藤)に話を伺った。 左から 松本 剛氏、近藤 千尋氏 化粧品の枠を超える美意識の輪 ──2017年にPOLA ORBIS CAPITALとしてCVCをスタートされ、2018年には研究統括機能と最先端情報の収集機能をもつMultiple Intelligence Research Center(以下、MIRC)を設立されたと拝見しております。御社がイノベーション実現に向けた取組について、積極的に行われるようになった経緯について教えてください。 松本:2017年当時、人々の暮らし方やコミュニケーションの仕方が加速度的に変化する中で、私たちポーラ・オルビスグループが将来も持続的に成長するためには化粧品に限らない事業創造の必要性が高まっていました。そこで、グループ理念を刷新し、社内ベンチャー制度の採用やCVCを活用したブランド戦略など、ホールディングス自らが汗をかいて新規事業に取り組むことで社内の意識改革を行っていきました。元々、ポーラ・オルビスグループはスキンケアの領域に研究開発のリソースを集中させており、特に基礎研究や新素材開発では、世界にない当社グループのみのオリジナル成分や特許、素材を複数保有しています。こうした弊社の強みである研究技術力を活用できる手段としてCVCなどのオープンイノベーションの取り組みが合致していたことが積極的な推進につながっていたのでしょう。 ──御社に蓄積された要素技術があるからこそ取り組みがうまくいっているということですね。MIRCとCVCとの社内での切り分けはどのようにされているのでしょうか。 松本:大まかに言うと、出資している事業はCVCを担当する別の部署が担当、研究が必要な事業はMIRCが担当という切り分けを行っています。ただ、完全に切り分けるのではなく、出資前後で互いに打合せを行い、MIRC側で協力できそうな事業であれば一緒に行うなど共同で進めていくケースも多いです。また、産学連携やM&Aについても別部署の担当として明確に切り分けるのではなく、必要であれば連携するといった流れで進めています。 ポーラ・オルビスホールディングスの研究開発体制 ──しっかりとした研究開発体制の基盤の上で連携関係が構築されているのですね。新規事業開発にあたっての大まかな流れについて教えてください。 松本:基本的にはアイデア創出から事業提案まで2年間という軸を設けています。ただ、内容によっては技術開発に時間がかかるため、プロジェクトごとに判断・議論しています。 近藤:事業検討継続の判断については社内で想定しているステージごとに基準を設けており、ある程度の柔軟性をもたせたうえで、マイルストーンに対する達成度や研究の進捗状況を踏まえて判断しています。 連携相手は「ぶらぶら研究員」が足で探す ──続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、アイデア創出における取り組みについて教えてください。 松本:先ほどお話しした内容と重なりますが、アイデア創出の際には「これまでの研究から得た知見」「社会課題」「外部のアセット」の三つを掛け合わせることができるかどうかを重要視しています。そうして浮かび上がってきたアイデアに対して、想定される新規顧客層の仮説設定を行ったうえで、プロジェクトとしてスタートさせます。進める中で想定した新規顧客層に対して社内外問わず、直接ヒアリングを行っていき、その反応を見ながらブラッシュアップを行います。 ──アイデア出し時点からターゲット層が明確になるよう工夫されているのですね。御社独自の取り組みとして研究員の方が世界各国に実際に赴いて社外探索をされていると拝見しております。共同する企業や相手はどのように探索されているのでしょうか。 松本:近藤の部隊が世界中から収集した情報を部内で共有し、面白そうな会社であれば面談等を通してつながる、といった流れで事業として拡大させています。また、イベントや公募等を通してつながる場合やポーラ・オルビスグループと関わりがある既存のコミュニティからコネクションを広げる場合もあり、「新しい価値を共に生み出せそうな会社」を足で探すことを重視しています。 近藤:具体例でいえば、宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster2019」でのANAホールディングス賞の受賞をきっかけとした共同事業や、経済産業省の令和3年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」における補助事業として採用された「me-fullness(ミーフルネス)」プロジェクトに関連した外部連携など、イベント開催や公募等の機会を活用しています。企業が集まる場に積極的に参加し、互いに参加者としてコミュニケーションをすることで、面白いアイデアや共同事業ができそうな相手を見つけています。 ──研究者が積極的に外に出て探索されている御社だからこそオープンイノベーションが加速しているのですね。具体的な連携方法について教えてください。 松本:基本的に互いに提供できるものがあるかどうかが議論のスタートと考えておりますので、アイデアレベルの情報であれば積極的に社外へ公開しています。大事なのはアイデアを実行できることであり、連携先の相手にとってメリットがあるかどうかを重視したうえで提案を行い、相手も興味を示したら連携を取る流れになっています。 近藤:例えば、ANAホールディングス株式会社との共同事業における「CosmoSkin」プロジェクトにおいては、極度な乾燥や重力が小さいなど、宇宙船内の特殊な環境での使用を想定したスキンケア製品をコンセプトに、ポーラ・オルビスグループからは化粧品に関する知見や技術を提供し、ANAホールディングス株式会社からは実証実験を行う上での人材やアイデアを提供いただいております。 ──相互の役割やメリットを明確化されているからこそ連携がうまくいくということですね。事業化、スケール化へと進む際の流れについて教えてください。 松本:特にスタートアップやベンチャーとの場合、事業化についてポーラ・オルビスグループとスピード感が異なることも多いため、「業務委託」といったイメージでスタートすることで社内的な共同事業のハードルを下げて進めることも選択肢としています。また、スケール化については通常の事業であれば利益目標として20~30億円、ライセンス事業であれば3~4億円を目標とした事業計画を設定できるかを一つのポイントとしています。 事業化が進められる「me-fullness(ミーフルネス)」プレスリリースより 研究知見×社会課題×外部アセットで「美しい人生を創る」 ──改めて御社が考えるオープンイノベーションにおけるポイントとは何でしょうか。 松本:社会課題を適切にとらえ、第三者からも評価を得られることが事業化のポイントだと考えています。それと、トライアルのタイミングで利益の目標値を設定し、その目標値を達成するかも見極めのポイントとしています。また、外部アセットを活用して進めていくうえで、連携先の企業との信頼関係の構築は必要不可欠であり、連携先の企業から評価を得られることが第一だと考えています。 取材対象プロフィール 株式会社ポーラ・オルビスホールディングス MIRC コクリエーション(インキュベーション)チーム チームリーダー(当時)現ポーラ化成工業株式会社 フロンティアリサーチセンター 副部長松本 剛氏 1997年、東京理科大学基礎工学研究科を卒業後、ポーラ化成工業入社。化粧品や健康食品の基礎研究、安全性、薬事、知財部門のリーダーを歴任後、2021年よりポーラ・オルビスホールディングス MIRCにて「コクリエーション(インキュベーション)」チームリーダーとして新規事業立ち上げに関わる。2022年10月より、ポーラ化成工業にて化粧品の枠にとらわれない新価値創造研究を担う「フロンティアリサーチセンター」の副部長。 株式会社ポーラ・オルビスホールディングス MIRC キュレーターチーム チームリーダー近藤 千尋氏 2004年、東京大学大学院薬学系研究科卒業後、ポーラ化成工業入社。シミ・しわに関する基礎研究に従事。2016年より研究企画にて研究戦略やオープンイノベーションの推進を開始。2018年より、ポーラ・オルビスホールディングス MIRCにて、世界各国から新たなシーズとニーズの探索を行う「キュレーションチーム」のリーダーを務める。 インタビュー実施日:2022年4月5日
『冴えわたる感受性』から生み出される独創的かつ色彩豊かなアイデアで、お客さまに『もっと楽しく、もっと心豊かに。人生を変えていくこと』を提案していく、株式会社ポーラ・オルビスホールディングス(取材当時)の松本 剛氏(以下、松本)、近藤 千尋氏(以下、近藤)に話を伺った。
左から 松本 剛氏、近藤 千尋氏
化粧品の枠を超える美意識の輪
──2017年にPOLA ORBIS CAPITALとしてCVCをスタートされ、2018年には研究統括機能と最先端情報の収集機能をもつMultiple Intelligence Research Center(以下、MIRC)を設立されたと拝見しております。御社がイノベーション実現に向けた取組について、積極的に行われるようになった経緯について教えてください。
松本:2017年当時、人々の暮らし方やコミュニケーションの仕方が加速度的に変化する中で、私たちポーラ・オルビスグループが将来も持続的に成長するためには化粧品に限らない事業創造の必要性が高まっていました。
そこで、グループ理念を刷新し、社内ベンチャー制度の採用やCVCを活用したブランド戦略など、ホールディングス自らが汗をかいて新規事業に取り組むことで社内の意識改革を行っていきました。
元々、ポーラ・オルビスグループはスキンケアの領域に研究開発のリソースを集中させており、特に基礎研究や新素材開発では、世界にない当社グループのみのオリジナル成分や特許、素材を複数保有しています。
こうした弊社の強みである研究技術力を活用できる手段としてCVCなどのオープンイノベーションの取り組みが合致していたことが積極的な推進につながっていたのでしょう。
──御社に蓄積された要素技術があるからこそ取り組みがうまくいっているということですね。MIRCとCVCとの社内での切り分けはどのようにされているのでしょうか。
松本:大まかに言うと、出資している事業はCVCを担当する別の部署が担当、研究が必要な事業はMIRCが担当という切り分けを行っています。ただ、完全に切り分けるのではなく、出資前後で互いに打合せを行い、MIRC側で協力できそうな事業であれば一緒に行うなど共同で進めていくケースも多いです。
また、産学連携やM&Aについても別部署の担当として明確に切り分けるのではなく、必要であれば連携するといった流れで進めています。
ポーラ・オルビスホールディングスの研究開発体制
──しっかりとした研究開発体制の基盤の上で連携関係が構築されているのですね。新規事業開発にあたっての大まかな流れについて教えてください。
松本:基本的にはアイデア創出から事業提案まで2年間という軸を設けています。ただ、内容によっては技術開発に時間がかかるため、プロジェクトごとに判断・議論しています。
近藤:事業検討継続の判断については社内で想定しているステージごとに基準を設けており、ある程度の柔軟性をもたせたうえで、マイルストーンに対する達成度や研究の進捗状況を踏まえて判断しています。
連携相手は「ぶらぶら研究員」が足で探す
──続いて各ステージにおける具体的な取組についてお伺いできればと存じます。まず、アイデア創出における取り組みについて教えてください。
松本:先ほどお話しした内容と重なりますが、アイデア創出の際には「これまでの研究から得た知見」「社会課題」「外部のアセット」の三つを掛け合わせることができるかどうかを重要視しています。
そうして浮かび上がってきたアイデアに対して、想定される新規顧客層の仮説設定を行ったうえで、プロジェクトとしてスタートさせます。進める中で想定した新規顧客層に対して社内外問わず、直接ヒアリングを行っていき、その反応を見ながらブラッシュアップを行います。
──アイデア出し時点からターゲット層が明確になるよう工夫されているのですね。御社独自の取り組みとして研究員の方が世界各国に実際に赴いて社外探索をされていると拝見しております。共同する企業や相手はどのように探索されているのでしょうか。
松本:近藤の部隊が世界中から収集した情報を部内で共有し、面白そうな会社であれば面談等を通してつながる、といった流れで事業として拡大させています。また、イベントや公募等を通してつながる場合やポーラ・オルビスグループと関わりがある既存のコミュニティからコネクションを広げる場合もあり、「新しい価値を共に生み出せそうな会社」を足で探すことを重視しています。
近藤:具体例でいえば、宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster2019」でのANAホールディングス賞の受賞をきっかけとした共同事業や、経済産業省の令和3年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」における補助事業として採用された「me-fullness(ミーフルネス)」プロジェクトに関連した外部連携など、イベント開催や公募等の機会を活用しています。
企業が集まる場に積極的に参加し、互いに参加者としてコミュニケーションをすることで、面白いアイデアや共同事業ができそうな相手を見つけています。
──研究者が積極的に外に出て探索されている御社だからこそオープンイノベーションが加速しているのですね。具体的な連携方法について教えてください。
松本:基本的に互いに提供できるものがあるかどうかが議論のスタートと考えておりますので、アイデアレベルの情報であれば積極的に社外へ公開しています。大事なのはアイデアを実行できることであり、連携先の相手にとってメリットがあるかどうかを重視したうえで提案を行い、相手も興味を示したら連携を取る流れになっています。
近藤:例えば、ANAホールディングス株式会社との共同事業における「CosmoSkin」プロジェクトにおいては、極度な乾燥や重力が小さいなど、宇宙船内の特殊な環境での使用を想定したスキンケア製品をコンセプトに、ポーラ・オルビスグループからは化粧品に関する知見や技術を提供し、ANAホールディングス株式会社からは実証実験を行う上での人材やアイデアを提供いただいております。
──相互の役割やメリットを明確化されているからこそ連携がうまくいくということですね。事業化、スケール化へと進む際の流れについて教えてください。
松本:特にスタートアップやベンチャーとの場合、事業化についてポーラ・オルビスグループとスピード感が異なることも多いため、「業務委託」といったイメージでスタートすることで社内的な共同事業のハードルを下げて進めることも選択肢としています。
また、スケール化については通常の事業であれば利益目標として20~30億円、ライセンス事業であれば3~4億円を目標とした事業計画を設定できるかを一つのポイントとしています。
事業化が進められる「me-fullness(ミーフルネス)」
プレスリリースより
研究知見×社会課題×外部アセットで「美しい人生を創る」
──改めて御社が考えるオープンイノベーションにおけるポイントとは何でしょうか。
松本:社会課題を適切にとらえ、第三者からも評価を得られることが事業化のポイントだと考えています。それと、トライアルのタイミングで利益の目標値を設定し、その目標値を達成するかも見極めのポイントとしています。
また、外部アセットを活用して進めていくうえで、連携先の企業との信頼関係の構築は必要不可欠であり、連携先の企業から評価を得られることが第一だと考えています。
取材対象プロフィール
株式会社ポーラ・オルビスホールディングス MIRC コクリエーション(インキュベーション)チーム チームリーダー(当時)
現ポーラ化成工業株式会社 フロンティアリサーチセンター 副部長
松本 剛氏
1997年、東京理科大学基礎工学研究科を卒業後、ポーラ化成工業入社。化粧品や健康食品の基礎研究、安全性、薬事、知財部門のリーダーを歴任後、2021年よりポーラ・オルビスホールディングス MIRCにて「コクリエーション(インキュベーション)」チームリーダーとして新規事業立ち上げに関わる。2022年10月より、ポーラ化成工業にて化粧品の枠にとらわれない新価値創造研究を担う「フロンティアリサーチセンター」の副部長。
株式会社ポーラ・オルビスホールディングス MIRC キュレーターチーム チームリーダー
近藤 千尋氏
2004年、東京大学大学院薬学系研究科卒業後、ポーラ化成工業入社。シミ・しわに関する基礎研究に従事。2016年より研究企画にて研究戦略やオープンイノベーションの推進を開始。2018年より、ポーラ・オルビスホールディングス MIRCにて、世界各国から新たなシーズとニーズの探索を行う「キュレーションチーム」のリーダーを務める。